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[章間]日置くんとそこそこ仲がいい程度の友だち1

ノロケたい。 自慢したい。 そういう人に対して一定の理解を示しながらも、自分はそんなタイプではない……と思っていた。 しかし、語りたい。ノロケたい。 ラブちゃんがどれだけ愛らしいか、どれだけ俺の胸をときめかせるか。 けれど、いざとなると惚気(のろけ)ても大丈夫そうな友だちがほとんどいない。 俺は今まで、恋人のことを惚気る友だちを余裕の表情で温かく見守っていた側だった。 実際は惚気るようなことが何もなかっただけだが、周りの勝手なイメージのせいで、惚気て恋人を自慢するようなキャラじゃないと思われている。 「◯◯ちゃんとどうなんだよ?」 「別に、食事行っただけ。単なる友達だし」 「◯◯ちゃんみたいなかわいい子と一晩過ごして何もないとか。んなわけねーだろ」 「本当に友達として食事しただけだよ」 「もー、本当、いつも余裕だよなっ」 よくある会話だ。 本当のことを言っても信じてもらえないから、話を曖昧に終わらせていた。 その結果、モテ自慢や惚気たりしない奴だと勘違いされた。 今まではいいイメージだからとそんな勘違いを放置していたけど…………。 あああ、ノロケたい。自慢したい。語りたい。 でも、いつも一緒に遊ぶような友だちに『こいつ、いきなりなんだ……』とドン引きされるのはなかなかダメージがデカい。 いや、一人だけいる。 例えデレデレの俺を見せてドン引きされても、お互い様と言えるような、みっともないところを見せられ続けている友人が。 ◇ 「いやー、お前とメシ行くって言ったら一緒に来たいって言うから~」 「サツマくん久しぶり~」 長く友人をしているが、俺がお前に話を聞いて欲しいと思うなんて、滅多にない……というか、ほぼ初めての事なんだぞ? なのになぜ、呼んでもいない女の子が一緒なんだ。 使えない……川内(せんだい)。 オシャレなダイニングバーの円形のカウンターテーブルで、テンションだだ下がりのまま、川内が連れてきた女の子だけじゃなく、いつの間にかなんだか知らない奴らとも一緒になって飲んでいる……。 なんだよこれ……。 女の子はラブちゃんと仲良くなったバスツアーで一緒だったコスプレイヤーの子だ。 確か川内のお気に入りの一人だった。 名前は……今はツムギちゃんと言うらしい。なぜか時々呼称が変わるので、名前は憶えず顔で判別している。 他に一緒に飲み始めてしまったメンバーはオタ系とビジュアル系ファッションの奴ら。 まぁまぁ濃い。 「そうそう、こいつ写真上手いから、ホワートベアーの皆も撮ってもらったら?」 川内の勝手な提案のせいで、いつも俺は色んなことに巻き込まれる。 ビジュアル系っぽいメンツの中に本当にバンドをしてる奴らもいたらしい。 けど、ホワイトベアーってバンド名はどうなんだ? オタクなのかビジュアル系なのか判別に困っていた数人がバンドメンバーで、川内の言葉にガクガクと首を縦に振ってる薄らコミュ障臭のただよう男がボーカルらしい。 前髪が長く、クドいTシャツを着てはいるけど、いたって普通で地味な子だ。 「どんな写真撮るの?」 一目でビジュアル系とわかる、髪の毛キメキメの奴はギターらしい。 このギター以外のメンバーは小物かTシャツがクドい程度でどちらかと言うとオタク寄りだ。 というか、至って普通っぽいのに小物だけビジュアル系なものを身につけてるので、オタクに見えてしまっているのかもしれない。 川内が俺の撮った写真をスマホで見せはじめた。 「え、すごい、この写真本当にキミが撮ったの?」 「……まあ」 「そう!サツマくん、本当に素敵な写真撮るのよ」 ツムギちゃんまで、余計なアピールをし始めた。 「え、このフィギュア、合成とか無しの写真?」 「……まあ」 「コスプレもかなり本格的に見えるの。ほら、これ私!」 「へぇ!いいね。じゃ、オレらも撮ってよ!」 「……まあ」 すごく、どうでもいい……。 こんなとこで俺は一体なにをやっているんだ。 ああああ…………。 ノロケたい。 ラブちゃんの話をしたい。 聞け、川内。 いつもお前のしょうもないモテ計画を聞いてやってるだろう。 机上の空論のモテ作戦につき合って、撮影会にも、アイドルのライブにも、ヨガ教室にも、夏フェスにも、スイーツ・ランにも一緒に行ってやった。 俺のノロケ話にくらいつき合えっっ! 「あ、この写真ちょっと雰囲気違うね。他のはクールだけど、これはすごく優しい感じ」 お、おおお、地味ドラムくん……! 「これは特別なんだ。俺の人生の転機といえるかも知れない、メモリアルな写真だ」 バスツアーの時に、和室で撮ったラブちゃんの写真。 窓から差込む光に彩られ、しどけなく足を投げ出して座るラブちゃん。 清純な色気をかもすラブちゃんの儚げなたたずまい。 汚れを知らないラブちゃんが、一体これからどんなことになってしまうのか。そんな想像をかき立てられる密やかなエロスが漏れ出る写真たち。 そして思い出すのは、撮影の合間にさらされた、ラブちゃんのなめらかな太ももを滑るキュートで清らかなカボチャパンツ。 そろそろと下ろしては上げ……。 はぁ……至福……。 もちろんパンチラ写真はアップしていない。 けど、この内モモ……。 川内のスマホだとわかっていても舐めたくなる。 「え~?こっちの写真のほうがよくない?」 …………。 作り込んだコスプレ、いかにもなセクシーポーズの写真。 たしかに見栄えはするが、ありがちで、モデルが『ほら、魅力的でしょう?』と、どうにも押し付けがましい。 ……ちっ。誰だ、センスのない……。 「ほら、これボクなんだぁ~~。ね、綺麗でしょ?」 「おおーすごい!綺麗!」 「わ、すげぇ!」 「……テメェ……」 自分の写真をみんなに見せてキレイ、キレイともてはやされて調子に乗ってるコイツ……。 いつ来たんだ、エンジェルコード。 「エンコくん、久しぶり~~!」 ツムギちゃんが嬉しそうにハイタッチをしている。 細い身体に黒々と染めたおかっぱのようなサラサラヘアで中性的な外見、普段からうっすら化粧をしているナルシスト男。 小鳥のような話し方が可愛いらしいそうだが、俺としては不快だ。 「やっぱりボクのこの写真がサツマくんの最高傑作だよね?」 あああ……面倒くさい奴がやって来た。 話に割り込んで自分の写真を見せまくって、誉められ喜んでる。 レイヤーなら誰だって自分のコスプレを誉められたいって気持ちはあるだろうけど、コイツは度が過ぎる。 「エンコくんのコスをサツマくんが撮ればもう、最強だよね!」 ……そんなわけないだろう。 俺より写真の上手い奴もコイツより雰囲気のあるレイヤーも腐るほどいる。 そもそも、最強って……俺は誰とも戦ってない。 「また二人の新しい写真見たいなぁ」 「そう?じゃ、撮影会しようかサツマくん」 「面倒くさい」 「ええ、どうして」 「忙しい」 なんでコイツのために俺の貴重な時間を使わなきゃいけないんだ。 なおしは多いし、長いし、撮る楽しさよりも面倒くささが先に立つ。 そんな暇があるならラブちゃんの足の匂いを嗅いでいるほうがマシだ。 普通なら匂ったりしないラブちゃんの足裏から、必死にラブちゃんの匂いを探す……。マシというか、むしろ楽しそうだ。 「そんなこと言わないで、これより素敵な作品作ろうよ」 口を小さくすぼめ、媚びを含んだ上目遣いで俺を見る。 かわいいと言えば可愛いのかもしれないけど、本能的に受け付けない。 はっきりした年齢は知らないけど、少なくとも俺より五歳は上みたいだし。 話を聞いてると、下手すりゃ三十過ぎてんじゃないかって思うこともある。 「俺はこの写真より、こっちの和室の写真の方が気に入ってるんだ。あんたじゃ、このラブちゃんの清純さは出せないだろ?」 「はぁっ!? どこがいいの?この子すごいフツーだよね?」 俺の写真にケチを付けただけなら大して気にもならないが、ラブちゃんをバカにするような口ぶりは許せない。 「普通ゆえにどんな風にでも演出できて、だけど清らかさは損なわれない。俺にとっては最高の被写体なんだよ」 被写体としても最高だし、さらに言えば撮ってて(じか)にさわりたくなったのはラブちゃんだけだ。 エンジェルコードなんか、被写体としてはフィギュアと大差ない。 「何バカなこと言ってんの?あ、もしかしてボクをたき付けてやる気出させようとしてる?」 「……」 は?と言おうとして言葉も出ず、口をぽかんと開けた間抜けな顔をさらしてしまった。 「もう夏休みだし、いつでも都合つくから、いいとき教えてよ」 勝手に撮影会をする想定で話を進めようとする。 夏休みっていったって、ろくすっぽ大学にも通ってないって言ってただろう。 留学や入学を繰り返す、大学生という肩書きの金持ちニート。 「悪いが俺は予定がいっぱいだ。それに……撮影は、させてもらうとしてもモデルはラブちゃんに頼むからいい」 「はぁ?ボクよりこの子がいいって言うの?この子がボクに勝ってるとことかどっかある?」 「全部だ。けれどあえてひとつあげろと言うなら『足』だ」 質問を聞き終わらないうちに答えてしまっていた。 「はぁ?足って……どこが」 「程よく筋肉のついた太もものなめらかさと、 男の子らしいしっかりした膝、 そして中性的でぷっくりと躍動を感じさせるひざ裏に、 張りすぎずけれど程よく膨らんだふくらはぎ さらに綺麗なスネのラインと、 指を入れたくなるような美しいくるぶしの下のくぼみ、 足首の腱からかかとのなめらかさ、 ちゃんと幅があるのにほっそりとした印象の足裏としっかりくぼんだ土踏まず、 トドメの長い足の指。 他にもまだあるが、一言でいうならこのくらいか。 あんたのニワトリのように細い足と比べれば、どちらが魅力的かは一目瞭然だ」 「いや、フツーでしょ」 口の端をニイッとあげて可愛く作った余裕の微笑みに、みぞおちがザワっとなる。 コイツを明確に嫌いだと思ったことはない。 けれど……………とにかく受け付けない。

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