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[章間]日置くんとそこそこ仲がいい程度の友だち2

エンジェルコードの作り笑顔にため息すら出ない。 「あんたの鶏ガラのように細い足を綺麗だと褒めそやす奴はいるだろう。でも、細すぎて貧相だと思う奴だっている。けれど、ラブちゃんの足はその普通さゆえに無敵だ。俺以外にこの魅力に気付く人がいなかったとしても、誰からも不快に思われることがない。普通ゆえに欠点がないんだ」 俺は隣に座っている川内のふくらはぎをつかみ、グイッと持ち上げた。 ハーフパンツからまばらなすね毛の生えた貧相な足が皆の目に晒されると、クスクスと笑いがあがった。 ひっくり返りそうにバタバタしているが、まあ怪我さえしなければいいだろう。 「男が足をさらせば、大体はこんなふうに嘲笑される。けど、この写真を見てラブちゃんの足を笑った奴なんて一人もいない。つまり『普通に』誰にでも受け入れられる美しい足だってことだ」 「えー。もっと細い方がいいと思うよ?」 しつこく食い下がるけれど、言いたいことは言った。もうコイツを相手にする気なない。 川内の足を放した途端、横から伸びて来た手に両手をつかまれてブンブンと振られた。 「……な?」 「ハーくん!す、す、すごいよ」 「え……『ハーくん』って……」 俺の手を握ったのはバンドのボーカルの地味な男だ。 そして『ハーくん』とは俺の小中学校の頃の呼び名だ。なぜ。 「い、い、いつも偉そうで、自信たっぷりで、で、こ、コイツなんなんなんだろうって、思ってたけど、ここここまで突き抜けてると、い、いっそ見事だ、だよ」 この口ぶりからして、知り合いなんだろうけど……誰だ?記憶はくすぐられるけど、正しいカードを探し出せない感じだ。 俺はとっさに川内を見た。 「小浜、オレが足引っ張られて笑われてんのに、なんでハーちゃん褒めるんだよ」 川内までハーちゃんとか言い出した…。何年ぶりだよ。 地味に恥ずかしい。 それに小浜…? 「せ、せ、川内の足、ほんと、き、汚い。ふふっ。汚い。虫に刺さされすぎ。し、小学生かよ」 「小浜……痩せたな」 昔は丸くて明るくて目立つ奴だった。 なんでこんな小さくなったんだ。いや、大して成長してないだけか? そういえば川内とコイツはけっこう仲良がよかった。 だからビジュアル系なメンツがこの飲みに合流したのか。 それに口を開けば良くしゃべる、この感じはたしかに小浜だ。 小浜だと認識すれば『うっすらコミュ障』なんてイメージは吹き飛んだ。 どもりも小刻みな動きもただ落ち着きがないだけだ。 「ハ、ハーくん、やっぱり気取った奴のまままだなって、て思ったのに、いいい具合に逸脱してるよね。こだわりに熱い、オ、オ、オタクの鏡だ」 「え……オタク?俺は何オタクに分類されたんだ」 「そうよ、どう考えてもオタクじゃなくて足フェチよね」 ツムギちゃんが嬉しそうに口を挟む。 「いや、足フェチに関して調べてみたこともあるが、フェチズムというのは特定のものに執着して対象物自体に性的興奮を持つものなんだ。だけど、俺は別にラブちゃんの『足だけ』に欲情するわけじゃないし、逆にラブちゃん以外の綺麗な足に強く魅力を感じることもないから……」 「やっぱり、す、す、すごいよ、ハーくん、ヤ、ヤバい発言でイケメンイメージをブチ壊すコトなんか全く恐れなないメンタリティ。突き抜けてるね!」 また小浜に両手を握ってブンブンと振られる。 「……悪いが何を関心されてるのか、さっぱりわからない」 なにか変なことを言ったか? いや、言ってないよな? 今のところラブちゃんの魅力の導入部分をほんの少し話しただけだ。 みんな酒が入ってるし、コイツもよくわからないテンションなのかもしれない。 「えー、足出した方がいいなら、ボクだっていくらでも出すよ?」 話の流れを全く無視してエンジェルコードが割り込んできた。 しかもやたらとグイグイとくる。 「……出したいなら、好きにすればいい」 コイツの負けず嫌いはかなりウザイ。 それにやたらアピールしてくるからといって、別にコイツが俺に興味があるというわけじゃない。 皆にちやほやされないと気が済まないから、興味の薄い俺に押しが強くなるんだ。 この『自分の魅力の押し売り』のせいで、俺とコイツができてるなんてロクでもない噂がたったんだろう。いい迷惑だ。 「川内、ちょっと今日は落ち着いて話ができないようだし。もう帰るよ」 大して聞いてくれてなくてもかまわないから、とにかく川内にラブちゃんの話をしたいのに、こんな状況じゃ無理だ。 「え、そんな……」 「そ、そうだよ、もう少しハーくんの話、聞きたい」 川内だけじゃなく、何故か小浜まで俺を引き止める。 「小浜、別に俺の話になんか興味はないだろ」 「ああある、どうやったら、そ、そ、そんな変態っぽいことを変態っぽくなく言えるのかとか……不思議」 「……小浜、それは俺が変態じゃないからだ」 俺は金を置いて席を立ち、小浜に向き直った。 「ラブちゃんの魅力について聞きたいと言うならいくらでも語ってやるからついて来い」 「わぁ。や、やっぱ上からなのは、か、かわらないねぇ。でも、昔よ、より、ファニーでいいね」 ダイニングバーの出口へと向かう俺に、小浜がついてきた。 行き先は……コイツとさしでじっくり飲む感じでもないだろうし、ドリンクバーのあるファミレスでいいか。 今まで誰にもラブちゃんのことをのろけられなかったんだ。 うっかり興が乗って、朝までトークになってもファミレスならば大丈夫だろう。 ◇ 「で、で、あのコスプレの子とつき合ってたり、す、するの?」 ファミレスで席に着く前から小浜は興味津々といった感じで聞いてきた。 「そうだ。ほんとについ先日つき合うようになった」 ふ…ふふふふふ……。 これだ。 こんな感じで興味津々に聞かれて、自慢し、のろける……。 俺は一度でいいからこれをやりたかったんだ。 「へぇ、ハ、ハーくんが口説いたの?」 「もちろんだ。何度も何度も告白して。けど、あの写真を見ればすぐわかるだろうけど、色っぽくともピュアだからな、イケそうだと思っても、なかなか想いが届かなかった。でも、俺を翻弄する無邪気な笑顔が愛らしくてな……」 「い、い、意外だなぁ。ちゅちゅ中学校の頃とかもっと派手な子とばかり、つ、つき合ってたよね」 「付き合ってない。噂を鵜呑みにするな。ラブちゃんは俺の初恋で、初めての恋人で、俺の恋心のすべてを捧げた相手だ。優しいけど、甘えるように小さな意地悪してきたりするのがまた可愛くて、それでも常に俺を気遣ってくれる。俺はラブちゃんが求めるなら、どんなことだってするつもりだ」 「わぁ……ハ、ハーくん重いねぇ。か、か、彼女ドン引きしてない?」 「だから、噂を鵜呑みにするなって言っただろ?彼女なんかいない」 「……え?ハ、ハーくんそれって、も、もしかして、も、も、妄想彼女ってこと?」 チャラン……。 小浜が何か言っている最中に、メッセージが入った。 ラブちゃんからだ! ラブちゃんは今日はバイトが(ゆう)入りだった。 俺が飲みに出てるのを知っていたから、バイト終わりにメッセージを入れてくれたらしい。 『楽しく飲んでるか?』って、それだけだ。 でも、それだけで俺はフワフワと夢心地になる。 ここからならバイトの居酒屋まで全力で走れば五分で行ける。 少しだけど一緒に帰りながら話すこともできるだろう。 「小浜、悪いが俺は行く」 言いながら、ラブちゃんに『バイト先に行くから待ってて欲しい』とメッセージを打っていた。 「え、ハ、ハーくん、い、今のゲーム音ぽかったけど……」 「ラブちゃんが待ってるんだ。それじゃあな」 「ラ、ラ、ラブちゃんって名前……やっぱ……い、いかにも『妄想彼女』っぽい……な」 小浜のブツブツ言う声は、俺の耳には入っていなかった。 のろけるよりも、本物のラブちゃんに会いたい。 そう思うのは当然だろう。 『彼女いるの?』 いつもみんな、そんな風に聞いてくる。 でも、ラブちゃんは彼女じゃない。 俺の初めてで最高の恋人だ!! 夜の街を足音を響かせながら俺は走った。 荒い息も残る暑さも気にならない。 この一歩一歩が俺をラブちゃんの元へと運んで行ってくれる。 『うわっ、すげぇゼェゼェ言って……そんな全力で走ってこなくてもいいだろ』 そんなことを言って、呆れたような、俺をいたわるような困った顔をするかもしれない。 俺は彼女なんか要らない。 ラブちゃんだけいればいい。 まってて、ラブちゃん! 夜道を明るく照らすラブちゃんの弾ける笑顔に、早く会いたいです!! 《章間-終》

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