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日置くんはカマって欲しい?2

抜けるような青空と、しっかりとした白い雲。 絵に描いたような良い天気だ。 眩しい日の光の下、日置がニッコリ爽やか笑顔でオレを迎える。 うーん。 愛しき恋人……のハズなんだけどな。 ………ウザい。 赤い軽自動車の後部座席には荷物が綺麗に積まれ、一見ラフなアウトドアファッションはキメキメ。 そのパーフェクト感がどうにも鼻につく。 ……いや、キャンプの準備をほぼ全部してもらって、その上家にまで迎えに来てもらってるのに、そんなこと言っちゃいけない。 車も妹さんから借りてくれたみたいだし。 妹さんは美容師の資格を取るため専門学校に通いながら美容室で働いているらしく、日置がお祝い代わりに車の頭金を出したので自由に借りれる約束になってるそうだ。 「さ、行こうか」 爽やかにドアを開けてオレをエスコートする。 なんか……さっきからこのカッコつけ感が気にくわない。 オレはいつもと変わらない格好なのに。 いや、むしろキャンプだからと素材の丈夫さ基準でTシャツとハーフパンツを選んでしまった。 まあ、オレが多少ダサいのはしょうがないとしても、キメキメのこいつにこんな風にされると、どうにも居心地が悪い。 「あ、後ろに値札付いてるぞ」 日置がばっと首の後ろに手をやった。 「あー、ごめーん。見間違いだったわ」 ふふふふふっ。 そうか、おニューの服なのか。 張り切って新しい服でキメキメなのかぁっっ。 さっきまでイケメン丸出しだった日置が少しソワソワし始めた。 はぁ……やっぱこのくらいの方が落ち着く。 車に乗り込むと、オレの顔を見つめ日置が頬を緩めた。 「ん?どうした?」 「いや、その、助手席にラブちゃんがいるんだなぁ……と思って」 「なんだそれ」 「いや……うん。じゃ、行こっか」 ウキウキを隠すことなく満面の笑みだ。 スムーズな走り出し。 意外に運転し慣れてる。 「結構運転するのか?」 「ああ、友達と車で出かける時は大体運転するね」 「いつも妹さんの車で?」 「そうだね、結構借りるかな。……でも、これからはさらに借りる回数が増えるかも」 「どうして?」 「……それはその……こんな風にラブちゃんと出かけたいから」 「え、でも妹さん困るんじゃない?」 「週三くらいしか乗ってないんだ。問題ない」 「日置の妹さんなら美人なんだろうな」 「美人だって言われてるみたいだけど、全くモテないんだよ」 「えー?お前が知らないだけだろ」 「言い寄られはするけど、口ばっかりで全然ダメだからあいつ」 「ああ、美人なら理想高くなりそうだな」 「理想が高いわけでもなく、こだわりが強いんだ。多分大人しく聞いてたら二、三時間でもこだわりを喋ってるよ」 「妹さんは日置と似てる?」 「化粧で顔が変わるから、最近は一目で兄妹だって言い当てられる事はないな」 「仲良いんだ?」 「いい……方だとは思うけど。年子で妹が早生まれの同学年だからどうにも生意気で、いちいち俺を小馬鹿にする」 「へぇ、そうなんだ」 日置の家族の事とか、こんなにたくさん聞くのは初めてだ。 家族の事を話してる時の日置の顔はどこか幼く見える。 知らない顔を見れるのって、ちょっと楽しいな。 「ラブちゃん、もうすぐ高速に乗るけど、忘れ物とかない?大丈夫?」 「んー、ない。あってもどうにかなるだろ」 「そう。じゃ、そのまま行くね」 「あ、そうだ日置、ちゃんとコンドームは沢山用意したか?」 へへっと笑ってからかう。 そんなオレを日置が真顔で見つめた。 「え、冗談だから。おい、オレじゃなく前見ろよ」 「………その、忘れものがあったから、戻っていいかな?」 「いいよ、戻れよ。なんでもいいから、前見ろ」 なんなんだよもう。 ガン見のわき見運転って怖すぎだよ。 そのまま速やかにアパートに引き返すと、一泊分くらいなら入りそうなサイズのバッグを手に持って、ニヘニヘご機嫌で戻ってきた。 「ちょっと忘れ物多すぎじゃね?」 「いや、まあ、その…迷いがあったというか……」 そのはっきりしない口ぶりに、エログッズでもパンパンに入ってんじゃ……なんて思ったけど、さすがにそんなタイプじゃないよな。 日置は後部座席に丁寧にバッグを積み込むと、再びキャンプ場に向かって車を走らせた。 ◇ 高速を下り、夏の陽射しの中、草がキラキラ輝く爽やかな高原を走っていく。 ……カッコつけじゃない。 照り返しが眩しいからだとわかってるけど、サングラスをかけた日置にちょっとイラっとする。 オレがかけたらお笑いぐさにしかならない、スポーティーなデザイン。 けど日置には普通に似合っていて、その横顔はぐっと大人っぽく見える。 はぁ……軽自動車でよかった。 これでスポーツカーや高いRV車だったら、オレはいたたまれなくって後部座席で荷物と一緒に小さくなってるところだ。 車がするりと細い脇道に入った。 すぐに倉庫のような建物が見え、その横の駐車場に日置が車を停めた。 でもここはキャンプ場じゃなさそうだ。 「ここ、アイスとソフトクリームが美味いって人気なんだ。食べない?」 「えっ、喰う!」 ぱっと見は牧場の倉庫のようだったけど、ガラスのはまった無機質なアルミ戸を開けるとそこにアイスクリームケースがあった。 「おお……すげ、マジでアイスクリーム屋さんなんだ」 「どれにする?ここの定番はミルクだけど」 数種類のアイスを前に悩んでいると、カップルと親子連れが次々に入ってきた。 目立たないのに、結構人気の店なんだな。 高原の風景を楽しみながら購入したアイスを食べられるように、駐車場に手作りの木製ベンチも設置してあった。 「ほんと美味いこれ!」 「ラブちゃん、こっちも食べる?」 日置がアイスをプラスチックのスプーンですくってくれる。 「何味?」 「ダブルベリーチーズケーキ」 差し出されたアイスをパクっと食べた。 「うわ、濃厚!美味い!」 いかにもカップルっぽい事をナチュラルにやっている。 大自然とアイスのパワーだろうか。 当たり前のように日置と過ごしてることが逆に不思議だった。 こんな感じで、本当に恋人らしくなっていくんだな……。 そんな思いがすっと心に落ちてきた。 ここのお店はよく見ると小さな看板が出ているけど、知らなきゃ絶対気づかない。 ってことは、きっと今までも誰かと来たんだろう。 オレの知らないコイツに、小さくヤキモチをやいたり、そんなことも恋人としての自覚のような気がする。 「日置、口開けろ」 「ん……」 問答無用でスプーンを差し込んで、舌にアイスをねじつける。 「……冷たっ」 小さなイタズラだ。 でも、舌の上で溶けるアイスが意外にエロかった。 ………あんま何も考えてなかったけど……これは夜もちょっと楽しみかも。 なんてこの牧歌的な風景にそぐわないことを考えてしまうのも、恋人としての自覚ってヤツかもしれない。

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