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日置くんはカマって欲しい?4

やっぱ海じゃなくって川にして正解だ。 河川プールは普通の長方形のプールと、水遊び広場と幼児用の浅いエリアがあって、利用者は親子連れとか、小中学生がほとんどだった。 セクシーな水着ギャルなんて全く見当たらない。 若い女の子がいてもせいぜいカップルで、Tシャツやパーカーでガッチリガード。露出はほとんどない。 日置の派手な水着姿を見て、逆ナンとかされたら面倒くせーな……なんてちょっと心配になってた。 日置は女の子にまとわりつかれ、オレは存在を忘れられてぼーっと見てるとか……なかなか屈辱的だ。 その上、目を離した隙に知らない女の子と二人でどっか行ってしまうとか平気でしやがりそうなイメージが。 はぁ……。もし今後日置と海に行くとしても、ビーチなんて呼び方が似合わない、クソ田舎の海水浴場限定だな……。 こんな田舎の河川プールでも、女子中学生が日置を見て騒いでるし。 きゃっきゃ言って抱き合って跳ねて……中学生ってほんと露骨すぎる。 そこそこ人の居る河川プールは避けて少し上流まで行ってみた。 離れたところにひとグループいるだけだから、回りを気にせずはしゃげそうだ。 海と違って川の水は冷たい。 長く浸かったままでいるのは無理そうだった。 何してるってわけでもなく、日置とギャァギャァ言いながら水かけ合って。 うん……。 ……楽しい。 フツーの友だち同士みたいにふざけてはしゃいで、疲れたら大きな岩に座って、日置にもたれて川で冷えきった身体を夏の日差しで温める。 友達と恋人の関係を行ったり来たりしているみたいで、日置と過ごすのはすごく気が楽だった。 これまで友達として一緒に出かけたことすら無かったから、そんな風に感じるのもちょっと意外だ。 互いの肌が温もりを分け合い一緒に体温を取り戻していく。 はぁ……。なんか幸せ。 ひなたぼっこってなんでこんな幸せ気分になるのかな。 時間を忘れちゃうよ。 ……って、日置。 斜め上からオレのタンクトップの胸元を必死で覗こうとしてないか? んなもん見て何が嬉しいんだ。 濡れたままのタンクトップの襟首を指でちろっと引っ張る。 ……あ、覗くのかと思ったら目をそらすのか。 ……あ、やっぱ覗くのか。 ……また目をそらした。 落ち着きがない。 「ラ、ラブちゃん、少し行ったところに親子連れもいるのに、誘惑するとか……ダメだって」 ……してねぇよ。 「暑いから胸元広げただけだし。見なきゃいいだろ」 「くうっっ。それは……。暑いんだったらまた川に入ろう」 「あー、日置の股間も冷やさなきゃいけないし?」 軽い冗談のつもりだったのに、日置が慌ててバッと両手を股間にやった。 うっ……やめろ。両手で水着を股間にピッタリくっつけて、何を確認してるんだ……。 「うん、インナーパンツ穿いてるから、少しくらいなら大丈夫」 もしかして最初っから勃つ前提で、防御のためのインナーパンツだったのか? 満足げなイケメンスマイルが痛々しい。 アホな日置を残してオレは再び川にザブザブと入って行った。 水深は腰よりちょっと深いくらい。 川底は石がゴロゴロしていて水深がすぐに変わるから気をつけないと。 「来いよ」 両手を広げるとニコニコ顔の日置がザブザブと近寄ってきた。 あと2メートルの距離まで日置が来たところで、履いたままだったビーサンを片方脱いでフリスビーのようにブンと上流に投げた。 川をプカプカ流れていくビーサン。 「ほら!取ってこい」 日置がザブザブと歩いて手を伸ばし、難なくビーサンを拾い上げる。 こちらに近づいてくる日置に手を上下に振った。 「おいでおいで~。ってうわっっ。がっっ……!」 日置がでかい図体で飛びついて来た。 足場が悪いから当然ひっくり返って二人で川に沈む。 「うぶはーーーーっ。バカ日置っ!」 水面から顔を出して怒鳴るけど、膝立ちで水面から顔だけ出した日置はニコニコとオレの顔の水を拭った。 「ラブちゃんが『来いよ』って言ったんだろ?はぁ……ものすごく可愛かった」 水中でオレの身体をギュッと抱きしめてくる。 近過ぎる二人の距離だけど……ここでなら問題ないか。 「ま、呼んだらちゃんと来るんだから、(しつけ)がいきとどいてるってことだよな」 「ん?」 ニコニコ顔に疑問符を張り付けている日置をぎゅっと抱きしめ返す。 冷たい水の中だとより強く日置の体温を感じる。 それがとても大切なもののように思えて、じんわりと胸の奥まで温もりが染みていった。 温もりを分け合うように、さらに身体を密着させる。 そして日置の濡れた唇に、チュ……と一瞬ふれるだけのキス。 すぐに離れてザブザブと川岸にあがった。 「そろそろ戻ろう。身体が冷えすぎる」 「あ……うん」 日置がまぶしそうに目を細めた。 大きな岩にはまだ日置が座ってた跡が濡れて残っていた。 濡れた手でその横に文字を書く。 『犬好き』 「え……ラブちゃんこれ……」 「声に出して読め」 「だ…だいす……」 「いや、ちゃんと読めよ」 「………………………いぬずき?」 「うん。知ってた?オレ犬好きなんだ」 「へぇ……?」 「でも、今家では飼ってないんだよなぁ」 コテージへ戻るため、石の転がる川岸から歩道へ上がる。 ちろりと後ろを見やると、ちゃんと日置もついてきている。 うん、うん。こういう小さなことが楽しいんだ。 「ペットOKの所に引っ越して俺が犬を飼おうか?」 「なんでだよ」 まぁ多頭飼いも悪くないけど。 「いや、見に来るかなって」 「うっわぁ……そういうの聞いた事ある。『ねぇ、俺犬飼ってるんだ見にこない?』とか言って女連れ込む手口!」 「えっ、ちがう、いや、違わないけど。ラブちゃんが自分の家で犬を飼ったら俺の家に来てくれなくなるかもしれないだろ?」 不安げな表情を浮かべる日置の頭を思わずワシャワシャとなで回してしまった。 「オレは他に犬を飼う予定なんかないし、わざわざお前が犬を飼わなくてもちゃんと会いに行くから」 「そうか……よかった」 ホッと息をついてさわやかなイケメンスマイルを浮かべた……はずだ。 けどオレにはブンブンと揺れる尻尾の幻覚が……。 うん、やっぱり犬は飼わなくてもいい。 この図体のデカイのがヤキモチをやいて、そこかしこの女にマーキングを始めたら困るからな。 ふふっ。こんど、ちゃんとしたフリスビーを買いに行こっと。 ◇ 「ラブちゃん、泳いだからシャワー浴びるだろ?」 コテージに戻るや否や日置がシャワーを勧めてくる。 半ば無理矢理バスルームに押し込まれたので、しょうがなく熱いシャワーを浴びた。 でも、隣の部屋で日置が何かゴソゴソやってる気配がするのが少し気になる。 「ラブちゃん、タオルと着替え置いとくから」 扉越しに日置の声がした。 「えっっ、オレの着替えって、なんで……」 この野郎、勝手に人のバッグをあさったのか!? 慌てて泡を流して出ると、洗面台の横のカゴにバスタオルと服らしき物が置いてあった。 適当にバスタオルを身体に巻いて、その服を見る。 黄みの強いクリーム色のシャツと赤い………。 え……これ、オレの服じゃない。 さらに言えば……。 「日置、なんだよこれっっ!」 「うん、着替え。絶対似合うと思うから着てみて!」 気を遣ってるのか、顔も見せずに隣の部屋から返事をする。 「なんでこんなもん着なきゃいけないんだよ」 「……だって、コテージだし」 意味が分からない。 「ラブちゃん、お願い。お願い。お願いしますっっ!」 脱衣所の入口の床にちょろっと日置の手が見える。 ええ……土下座してるってこと? 「……もう、しょうがねぇな」 着たら案外それなりに見えるかも。 何となーくで流されて、オレはその服に袖を通してしまった。

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