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日置くんはカマって欲しい?5

……………。 一応、着るには着たけど……。 洗面台の鏡の中の自分の姿がなんとも間抜けだ。 「日置……全然ダメっぽいぞ」 脱衣所の入口から顔だけ出してみる。 「そんなことないよ!すごく似合ってる」 日置が急いでオレの姿を確認しに来た。 「う……日置その手にしてるのは」 「あ、うん、これもかぶって」 ちょっとぼさぼさになっている焦げ茶のおかっぱカツラをかぶせられる。 「……で、この格好なに?」 少し淡い黄色のシャツと赤いショート丈のベスト、赤っぽいピンクのハイウエストの吊りスカート。吊ってる部分はベストで隠れるようになってた。 「ああああ…ラブちゃんやっぱり可愛い!!!」 「……ちび◯子ちゃん?」 「いや、このコテージがログハウスだから、それに合わせてアルプスの山を走り回る名作アニメの女の子のコスプレ衣装を用意してみたんだ。ラブちゃんホント良く似合ってる」 ぼさぼさのカツラを手早く直したと思ったら、容赦なく顔に粉を叩かれる。 テカリを押さえる程度でそんな白くならなくてよかった……と思っていたら、ばっちりチークを入れられてしまった。 「完璧っ!いや思った以上だ。ラブちゃんが着るとスカートがミニ丈になって、足がすごく長く見えるね」 「いや、アルプスのあの女の子の足が長いとか、まぁまぁ不気味じゃないか?」 服の生地はしっかりしたものだったけど、オレが着るとどうにも安っぽく見える。 手を引かれ、半ば無理矢理脱衣所から連れ出された。 フローリングの室内には壁際にふとんがこんもり小山をつくるように置かれ、上にかかった白いシーツがふんわりとなめらかなシワを作っていた。 これは………セット……的な? あ、やっぱりローテーブルの上にカメラが。 そして、カメラのそばに、あのわざわざ取りに戻ったバッグが置いてあった。 ……もしかして、この衣装もあのバッグから? オレが日置に余計な事を言って戻ったりしなきゃ、こんなことにはならなかったのか……。 ちゃんとしたコスプレならまだしも、こんな変な格好で写真を撮られるなんて、恥ずかしくてたまらない。 日置は不機嫌なオレにかまうことなく、適当に一枚撮ってカメラの調整をしている。 「じゃ、まずそこの壁にもたれて立って……足はクロス気味がいいかな」 当たり前のように撮影が始まってしまった。 ……キャンプに来て、何してるんだろオレ。 「この感じ、いいね」 嬉しそうに笑ってるけど、絶対変だって。 「どんなカンジ?ちょっと見せて?」 オレが言うと、日置がタブレットですぐに画像を見せてくれた。 「お…おおぅ……」 不機嫌さ丸出しの長身の女が裸足で壁にもたれて立っている。 窓からの少し傾いた強い日差しで、身体の半分に濃い影が入り、かなりのインパクト。 題するなら 『アルプスの少女ドS』 震えるヤギ達を無表情のまま鞭で打ちそうだ。 オレが思っていたのとは真逆の意味でおかしな写真に仕上がってる。 奇をてらってわけのわからないことになってしまったハイブランドの広告を思い起こさせるような……。 「今までのイメージを打ち破る感じで面白いよね」 「いや、アルプスの少女って設定を無視しすぎだろ」 かっこつけてたつもりはないけど、気取ってる仕上がりが恥ずかしすぎる。 「そう?ラブちゃんの表情を活かすためにかなり影を強めに出してみたからなぁ」 ……ってことはオレが不機嫌な顔してる限りこんな迷走写真を撮られるのか。 「じゃ、今度は壁に両手着いて振り返る感じで」 オレの迷いなんか気にも留めずに日置が撮影を続ける。 表情をつくることはできなかったけど、とりあえず不機嫌顔ではないはずだ。 「あ、いいね、その無表情な感じもクールで。少しずらした足のそろえかたもすごく奇麗だ」 クール……ってことはやっぱりおかしな世界から抜け出せてないんだな。 「少し立ち位置を壁から離して壁に両手着いて同じポーズ……うん、腰をそらしたその感じ、すごくいいね」 これは……一人壁ドン?いや、反省猿のようだ。 振り返りのせいで腰を日置の方に突き出すようになってるし。 「あ、ちょっと睨んだ感じカッコいい」 「カッコいいじゃねぇよ。もしかして後ろ、スカートギリギリだろ?」 後ろ手で指を広げお尻を隠す。押さえると逆に見えてしまう事もあるってちゃんと学習したからな。 けどその瞬間またシャッターがおりた。 日置、嬉しそうな顔しやがって。 「大丈夫。ギリギリ隠れてるから」 「見せろ」 ……やっぱり……アルプスの少女感ゼロだ。 「何だよこのエログラビアの導入みたいなの」 「……そう言われても、あまり見たことないからよくわからない」 「うそつけ」 「どんなのが多いの?」 「……それは…その……。まあ、いい」 下手に例を出したらそのポーズをそのままやらされそうだ。 自爆だけは避けねぇと。 「せめてもうちょっと柔らかい印象の写真にならない?」 「あ、じゃあ、そこに」 あえてクシャっと積んだ布団に白いシーツ。 いや、この一番上にかけてる柔らかい布はシーツじゃない。 「この白い布も持ってきたのか?」 「うん、ここのシーツだけだと布団の柄が透けるかもしれないと思って」 その一言で日置の本気っぷりが伺えた。 キャンプとか言ってたくせにガッツリ撮影会する気だ。 「その上に座ったり、もたれかかったりして、好きにくつろいでくれる?」 これはある程度満足するまで撮影をやめてくれなさそうだ。 下手に嫌がって逃出せば、その逃げてる姿を撮られてさらに恥ずかしい思いをすることになるのは間違いないだろう。 おかしな写真を撮られるくらいなら、協力してちゃんと撮ってもらう方がマシだ。 「ちゃんと可愛く撮れよ?」 うっ……日置が満面の笑みになった。 「大丈夫。ラブちゃんは白目剥いてもかわいいから」 んなわけねーだろ。 心の中でブツクサ言いながらふとんの上に座ったけど、自分の『可愛く撮れよ?』が恥ずかしくて、微妙な表情になる。 「あ、その照れた顔、可愛い。ちょっと素直じゃない感じ。……はぁぁぁ……かわいぃ……」 シャッター切りながらぶつぶつ言うのやめろ。余計に恥ずかしくなるじゃないか。 それでも膝立てて座って、そのまま横向いて……と、いろいろ指示されてるうちにオレもだんだんノってきた。 カメラを見つめ、布団の山に寝転び、肘をついてぶりっ子ポーズ。 あ、今可愛い顔できた……とか、思ってしまった自分がちょっと怖い。 仰向けでゴロゴロしていたら、そのまま木の壁に足をかけて上げるよう言われた。 夏場は寝てて暑くなると、こうやって壁に足を添わせて冷やすんだよな……。 「なぁ、なんで布団の山の上なんだ?」 「リネンの山とか雲とかそんなイメージ」 「ああ、なるほど。……っあ…西日がまぶしい……」 「ごめん、そのままちょっと我慢してくれる?ちょっと光が飛んでいい感じなんだ」 光が……ってのも嘘じゃないんだろうけど、口の中でブツブツ「しかめた顔がエロい……」とか言ってないか……? 「ん……壁に足かけるの、なんか安定しない」 落ち着かずグラグラしてるオレを日置が嬉しそうに見ている。 「っ……はぁ……このポーズは絶対撮りたかったんだ」 「え、そうなの?」 日置が妙に興奮している。 「はあ………イイっ……はぁ……やっぱイイ……っ。足少しずらしてみて?」 壁に立てかけた足を少し左に倒して右足を曲げた。 でもスカートがめくれる。 手で押さえて直そうとしてるところをパシャパシャと撮られた。 「ちょ……まだ体勢が不安定だから」 「いや、そのスカートを押さえてる感じが最高だから。はぁ……むき出しの足が不安定に揺れて……いつまででも見てられる……。写真じゃなくて動画にしたい。あっ……いまの、足の指ギュッてするの……か、可愛過ぎっっっ」 なんか……日置がアブナイ……。

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