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御礼SS:ラブちゃんはあくまで天使
カシャ……。
シャッター音とともに強い光が瞬く。
目の前にはコスプレのラブちゃん。
俺の狭いアパートでもリビングにロールペーパーを垂らすだけで簡易のスタジオ代わりになる。
ラブちゃんは、人気のアニメの敵の首領を補佐するイケメン悪魔のコスプレ姿だ。
闇のように黒いカツラと目のまわりの黒い囲みメイクが妖艶で、服装も露出度が高い……というか、半裸……。
エナメル風のボンテージベストに……。
いや、露出度が高いのはいい。
悪魔だからしょうがないとはいえ、下半身がヤギの毛皮風の七分丈。
ラブちゃんの生足がスネから下しか見えない。
でも、しっぽの関係で半ケツのように見えるのはたまらなく愛らしい。
滅多にない黒いペディキュアも吸い込まれそうだ。
振り返りのバックショットで挑むような表情を撮る。
座ってもらって足をこちらに伸ばし……。
「なぁ、まだ撮るの?こんな写真撮っててオマエ本当に楽しい?」
ラブちゃんに聞かれてハッとした。
俺は何でこんな写真を撮ってるんだ?
コスプレとしては確かに魅力的でいい写真が撮れそうだけど、そのモデルがラブちゃんだと思うと、このコスプレは俺にとって満足度が低い。
なんでこんな写真を……?
はっ!
これは……また!
ふっと視界が黒で埋められたと思ったら、ラブちゃんが俺の首に腕をまわして顔を覗き込んでいた。
「日置、夢なのに、なんでオレにこんな格好させちゃうかなぁ……」
………ですよね。
「下半身毛深ーい。オマエ、こういう趣味?」
「いえ……ナチュラルな毛量がいいです」
「ま、いいや、続き撮れよ」
どこから出てきたのか、黒い革の椅子に座るラブちゃんを、床に接するくらい下から撮る。
生足の範囲は少ないけれど、ペディキュアを塗ったつま先は美しい。
背中に悪魔の羽根を背負っているため椅子に斜めに座って、頬杖をつき、ニイっと口角をあげた。
その挑戦的な表情が最高にそそる。
撮られながら少しずつポーズを変え、プラプラと足先を遊ばせて……。
はぁ……その黒いペディキュアに吸い込まれてしまいそうだ。
「こら、せっかくこんなエッチな格好してやってるのに全然撮ってない」
そう言って、足でクイっとカメラを踏まれてしまった。
「あ……ゴメン」
「それ、ゴメンって態度じゃなねぇな」
今度はグイッと頭を踏まれる。
う……あ……。
なんか……ドキドキする。
「ほら『ゴメンナサイ』は?」
「ごめん……なさい」
クイっとつま先でアゴを持ち上げられた。
足を組んで椅子に座るラブちゃんと、床に伏して顔を持ち上げられる俺。
ああ、なぜラブちゃんの足が毛むくじゃらなのか。
夢なのに……夢なのに……。
「『ごめんなさい』の声が小さい。この口は飾りか?」
ラブちゃんの足の親指がクイっと入ってきて俺の口を横に引いた。
「あふっっ……ご……めんなふぁい」
「きこえねぇなぁっっ!」
足の指でつまむようにして、さらにグイッと引かれる。
「ほめんはふぁい!!」
うう……。
……なんか……ちがう。
確かにペディキュアを塗ったラブちゃんの足の指をパックンしたいなぁ……なんて邪 な事を想っていたのは確かだ。
親指と言わず全部の指をペロペロ、ヌポヌポしたいなぁって思ってたよ。
でも、俺が想像してたのはこんなじゃなくって……。
あっ……っいてっっ!
けっこうな力で頭を踏まれた……。
違う、こんな大悪魔じゃなくって、もっと小悪魔な感じで……。
「なぁ日置、初エッチの前にオレをその気にさせるセリフを一生懸命憶えてただろ?でも結局言わなかったし、せっかくだから今、言ってみろよ」
「え……でも、あれは絶対ラブちゃんドン引き……」
「口答えするな。言え。オレを誘ってみろよ。そしたらイイコトしてやるから。コレは夢だってわかってんだろ?だったら、どんな願いだって……な?聞いてやるぜ?」
う……たしかに……これは夢だ。
なんだかいつもと違う変なラブちゃんだけど、その分大胆ですごいコトもしてくれそうな気が……しないでもない。
ただ、大丈夫かな……。
「なんだよ、言わねぇなら、オレ帰ろっかな」
「えっ!言います。言います」
「言いますじゃねぇ。はやく言え」
くっ。また蹴られた。
……本当にこのラブちゃんはガラが悪い。
「その……ラ、ラ、ラブちゃんのデカマラでガン掘りして欲しいっ………す……」
「ふぅん。日置、デカマラ大好きなんだ?」
「え……いや……別に……」
「別にじゃねぇだろっっ!」
「いてっ!す、すき……です。デカマラ大好きですっっ」
俺の言葉にラブちゃんがニィィっと笑った。
「そっかぁ〜。日置はデカマラ大好きかぁ。でもザンネ〜ン。ほら、この衣装上下一体型でチンコ出せないんだよね〜」
ふはははと高笑いをして、またグイッと俺を踏みつけた。
「くっっっ。悪魔っ。オマエなんかラブちゃんじゃないっ!」
俺を踏みにじる足をパンと叩いて起き上がり、キッと睨みつけた。
けど、目の前にはローソファに膝を抱えて座り、ブルブル震えるラブちゃんが。
「日置……ヒドイ……。オレのこと叩くなんて」
「え……あ……??」
さっきまでの高笑いの悪魔とは違い、まるで子鹿のようだ。
「日置がオレに踏まれるのとかちょっとスキみたいだったからやってあげたのにぃ……。イヤならイヤって言ってくれればいいのに、いきなり殴るなんて。日置DV男だったんだな」
クスンクスンとすすり泣き始めてしまった。
「あっ、ごめん、ごめんなさい。その、ラブちゃんが本当に悪魔みたいに見えてしまって……」
「日置、オレのこと天使って言ってたよな」
スンスンとすすりあげながら、俺に抱きついてきた。
「そう……だよね。ラブちゃんは天使……」
「ウン、オレ天使だからさ、人間とエッチしちゃうと堕天使になって、悪魔になるんだよ」
「えっっ……」
ラブちゃんがウルウルの目で俺を見つめ、小首をかしげた。
「日置、オレを堕天使にしてしまった罰として、夢の中でエッチなこと禁止な?」
「はっ、はぁあああ!?」
「ってことで、オレは今から霧島と交通量調査のバイトに行くから。じゃあな!」
「えっ、その格好で?」
「皆きっとじろじろ見るだろうから、歩くペースがゆっくりになって数えやすくていいよな」
悪魔なラブちゃんは、アパートの窓を開けてそのまま飛んで行ってしまった。
「えっ、ちょっと……ラブちゃんっ!ラブちゃんっっっ!エッチな事しなくてもいいから、霧島じゃなくって俺と一緒にいて!」
シタン!と勝手に窓が閉まって、その窓に道路に霧島と並んでパイプ椅子に座るラブちゃんの姿が映っていた。
「ラブちゃんっっっ!せめてそのエッチすぎるボンテージ衣装だけでも着替えてぇぇっっっ!!」
………。
……。
「……あ、起きた」
ボヤーンと焦点が定まっていくと、そこには俺を覗き込むラブちゃんの顔があった。
いつもの愛らしいラブちゃんだ。
ドギツイ悪魔メイクもしていない。
……ていうか……起き抜け寝癖で可愛らしい。
「う……?」
眉間に圧を感じてパッと手をやると、どうやらラブちゃんに指で押さえられていたようだ。
「なんか、眉間にすげぇシワ寄せてた。イヤな夢でも見た?」
「ちょっと……」
ラブちゃんが悪魔になる夢を見たとは言い出しづらく、言葉を濁した。
すると、身体がグッと暖かい感触に包まれた。
「オレが側にいるから。ヤな夢なんか忘れろよ」
ポンポン……っと優しく頭叩かれる。
………優しい。
やっぱり、ラブちゃんは天使だ……。
はっ!いや、これこそ夢なんじゃ!?
観察するようにじっと顔を見つめた。
普通にかわいく見えるけど、どこかおかしいところはないか?
変な服来てたり、ツノが生えてたり……。
「ん?なんだ……?もしかして寝起きで混乱してる?」
ラブちゃんの顔がスッと寄ってきて……。
キス……?
やっぱり夢?
と思ったら、俺の頬をガジガジと甘噛みして、最後にカリッと犬歯で小さな痛みを残した。
「夢じゃないぞ?ちゃんと目を覚ませよ」
ふふっと悪戯に笑う。
優しくて可愛い、小さなイジワル。
小悪魔な天使。本物のラブちゃんだ。
ぎゅっとラブちゃんを抱きしめる。
「ラブちゃん……キス……していい?」
「ダメ」
即答にちょっとショックを受けた。
「日置、前に虫歯無いって言ってただろ?」
「は……?うん、それが?」
「いや、その……オレ、治療はしてるけど虫歯あったし……」
「……うん??」
「起き抜けのキスはうつりやすいって、まあ、ちゃんと調べたわけじゃなくって噂だけなんだけど……。だから、歯を磨くまではキスは口以外に……な?」
「え、いや、別に気にしないけど」
「オレが気にする。んちゅ……。ほっぺたじゃ、物足りない?」
俺を気遣ってるのに、困ったような顔をするラブちゃんが可愛いすぎる。
「ふふふっ……物足りない。口にしなくてもいいから、もっといっぱいキスしたい」
ちょっと笑って、ラブちゃんの首筋にキスを散らす。
「ん……見えるところに跡を残すのはダメだぞ?」
「うん、わかってる」
ラブちゃんはキスの跡が残りやすい。意外なところに俺のキスマークがついていることがある。
耳の後ろ……見えるような見えないような……。
ちゅ……ちゅ……。
残るかな……?
残るといいな。
「ラブちゃん、俺には見えるところにキスマークつけて」
「オマエ、バカだろ」
呆れたように顔をしかめられてしまった。
けど、ちょっと止まって何か考えるように斜め上を見つめた。
「ま、いっか。鎖骨につけといてやるから、チラ見せして勝手にモテ自慢でもしろ」
「ありがとう。モテ自慢……じゃなくて愛され自慢だよ」
チュッと吸い付く軽い痛みについつい顔がにやける。
「あ……ラブちゃん、見えないとこ……足の甲にキスマークつけていい?」
「はぁっ!? オレ、最近サンダルばっか履いてるし、見えるだろ」
「気付いてもキスマークだとは思わないよ、きっと」
断られるかなって思ってた。
けど、ラブちゃんはベッドに座って俺に足を差し出した。
一瞬、悪魔なラブちゃんが頭をよぎる。
けど目の前のラブちゃんはどこか恥ずかしげで……。
「はやくしろよ」
つっけんどんな口調も照れ隠しだってすぐにわかる。
両手でラブちゃんの右足を捧げ持ちゆっくりと口を近づけた。
「あふっ……やっぱ、ヤっ!息がくすぐったい!」
まだキスしてないのにビクビクと足を引いて逃げようとする。
けれど、カカトをガッチリつかんで逃がさない。
そのまま唇を押しあて、チュッと吸ってレロ……っと舐めた。
……幸せだ……。
「んぁっん……舐めるのダメだってっ」
逃げようとする足をしっかりつかんで、さらに足の親指の先にチュッとキスをした。
ツルンとした指先をくわえてしまいたい。
そう思いながら二度三度とキスを繰り返したら、逃げるようにバタついた足が『ガン』と俺の顔を蹴った。
「っあっっ!? ごめん!!」
顔を押さえて伏せた俺をラブちゃんが気遣う。
ああ、やっぱりラブちゃんは天使だ。
俺を踏みつけて高笑いなんかしない。
嫌がっているところに無理矢理キスを続けたせいで、弾みで蹴られたんだから、ラブちゃんは謝る必要なんかないのに。
夢より何倍も痛いのに、比べようもないくらい嬉しい。
「……お前、なにニヤニヤしてんだよ、気持ち悪いなぁ……」
「ん……ごめん。でも、うれしくって」
「……蹴られて嬉しいとか、お前マジでマゾなんじゃね?」
「それは、ちがう」
サッと身体を起こして、ラブちゃんにグイッと詰め寄っていた。
「ちょ、真顔怖い……怖いって」
「俺も多少そこを疑って調べてみたんだけど、サディズムとマゾヒズムの間には使役と従属の関係が必須でね、肉体的苦痛はその本質にはないんだ、だから……」
「あーもう、朝っぱらからややこしい事はどうでもいいよ」
俺はグイッと押し返され、そのまま仰向けに押し倒された。
「時間、まだ余裕あるんだろ?もう少しゴロゴロしよ」
ラブちゃんは俺の胸に頬を当てて、目をつぶった。
その鼻先にカーテンから差込んだ光が遊んでいる。
愛らしい。
やっぱりどこからどう見ても天使だ。
……人と交わりを持った天使は堕天して悪魔となる……。
けれどラブちゃんは天使のままだ。
という事は……。
はっ……!俺も天使!?
………。
ああああああああ。
どういう発想だ。
恥ずかしい。
猛烈に恥ずかしいっっっ!!!!
「ん……もぞもぞすんなよ」
「ごめん」
でも恥ずかし過ぎて、じっとしていられない。
「……ねえ、ラブちゃんが天使なら、俺は……何かな……」
「んっ、抱き枕」
即答。
そうか。
たしかに。
ラブちゃんが天使で俺が抱き枕だとするなら、ラブちゃんと俺との交わりは、天使が抱き枕を足にはさんで寝ただけということになる。
うん、うん。
それなら、これからどんなに二人で甘い夜を過ごそうとも、ラブちゃんは天使のままということだ。
俺はラブちゃんのクッションで、足置きで、抱き枕。
ラブちゃん、これからも俺を側においてどんどん使ってください。
……はふぅぅぅ。幸せっ。
《終》
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