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17/ラブちゃんは草食系1/日置くんは草食動物と肉食動物の違いを考察する

■4章日置くんはカマって欲しい?『17/ラブちゃんは草食系1/日置くんは草食動物と肉食動物の違いを考察する』 4章は『キャンプ編』と『ラブちゃんは草食系編』の二部構成です 秋の行楽シーズンのお話 ―――――――― 目の前に座る南城は、地味にすら見える顔だがパーツのバランスがよく、柔らかい印象で女性受けが抜群にいい。 大学のドリンクスペースで足をブラブラさせながら猫背で紙パックのコーヒー牛乳を飲んでいても、なぜかサマになる。 髪型を変えるのが好きで、今はミルクティーのような柔らかな金髪でかすかにウエーブがかっているが、その前はわざわざ深い黒に染めストレートパーマをかけていた。 顔の主張が強くないので、どんなスタイルも良く似合う。 空気を読むのに長けていて、甘え上手で、ノリがいい。そして義理堅い。 俺とも気が合う。 大学でいつも一緒に行動する友人の中でも一番仲がいいと言っていいだろう。 ぱっと見は草食系男子だ。 大好きな人としか付き合いたくないなどと殊勝なことを言っているが、恋人未満の女の子が複数人……。 それでもトラブルにならない『上手い』奴。 こいつの周りに常に女がいるせいで、一緒にいる俺まで女の子を取っ替え引っ替えしていると勘違いされているような気がする。 まあ、気づけば俺の方が仲良くなってるなんてこともよくあるけど。 きっと、こういう草食系っぽく見えるのが『イマドキのモテ顔』ってやつなんだろう。 ラブちゃんも見た目は草食系男子だ。 いや、中身も草食系なんだろう。 けど、ここで矛盾が生じる。 『草食系男子』とは、手を出そうと思えば出せるのに据え膳食わない奴のことだ。 しかし『草食動物』となると一日中食ってばかりで、食料となる草が減るに従って居住地域さえ変える。 食欲も性欲も非常に旺盛だ。 対して『肉食動物』というのは一度にガッツリ喰らって満足すれば、その後目の前を餌となるような動物が通っても見向きもしない。 ………。 ラブちゃんは、どう考えても『肉食動物』だ。 ガッツリやって満足したら、その後しばらく見向きもしない………。 うちにはちょくちょく遊びに来てくれるし、ソファ座るときに俺にもたれかかったり、ふれ合いはある。 キスもするし、恋人として付き合っていると思える関係性ではある。 ただ……。 アレヤコレヤが全く………。 いや、全くというわけじゃない。 急に思い出したようにガッツリ致したと思ったら、その後ずっと放置。 本当に肉食動物だ。 しかし世間ではそれを『草食系男子』と呼ぶのだろう。 逆に俺は一度がそこまで濃厚でなくていいので、毎日でもふれ合い抜き合いイチャイチャしていたい。 最後までしなくてOKだ。 けど、一度その気のないラブちゃんにふれようとして露骨にうるさがられてしまったので、それからもう手が出せない。 ラブちゃんがその気になるのをただ待つしかなく、俺は飢え死にしてしまいそうだ。 前回は三週間も前になる。 そろそろ……とは思うけど、ラブちゃんがうちに泊まれるタイミングがなかなか……。 俺も喰い溜めができればな……。 「はぁ……肉食動物になりたい」 「え?日置くん充分肉食系でしょ?」 ツッコミながらも南城はスマホから目を離さない。 「肉食系男子じゃなく、肉食動物になりたいんだ」 「どう違うの?」 「ちょこちょこ食わなくても食い溜めができる」 「ぶはっっ!日置くんっっすごいねっっ!」 「集中力がなくなるから悶々としたくない」 「ひ……ひどっっっ!!」 ……何が酷いんだ? あまりにも『オアズケ』が長すぎて、ラブちゃんが家に来ても今日はするのかしないのか気配を探ってばかりだ。 これはあまりいい状況とは言えない。 「日置くん男汁(おとこじる)噴出中だね。その有り余る性欲をさ、ちょっと違う方向で解消してみたらどうかな?」 「違う方向?」 「うん。身体動かすとかどう?」 ◇ 『身体を動かす』なんて言っていたけれど何の事は無い、バイトのヘルプを頼まれただけだった。 南条はイベントスタッフのバイトをやっている。 派遣会社だけじゃなくいくつかの代理店にも人脈ができて、切れ目なく仕事が入っているようだ。 人員整理や設営、物販などその時々で仕事の内容は変わるらしい。 「確かに野外のイベントだとは聞いていたけど……」 「うん」 「メジャーな五人組って……」 「超メジャーだろ?最近はヤングなママさんにも大人気なんだから」 「いや、知らないし」 南城の口ぶりからして、音楽イベントか何かだと思っていたのに。 「大丈夫、大丈夫。日置くんは設営と誘導だけだから」 「当たり前だ。そういう話で来たんだから」 野外ステージの前にあるヒーローショーの看板。 ただのイベントスタッフのバイトなんだから、内容がヒーローショーだとしても本当なら隠す必要はない。 南城がそれを素直に言わなかった理由は………。 緑色のジャージで一生懸命決めポーズの練習をする南城。 ああああ………ドン臭い。 スーツアクターが急病で欠員が出たけれど、行楽シーズンはキャラクターショーが多く開催されるため代役が用意できなかったらしい。 それで大したアクションがなく一番楽な代わりに、出ずっぱりでキャストが掛け持ちで出演することのできないグリーンを南城が引き受けることになった。 けど……なぜだ。 ただ決めポーズを取るだけなのに、他の人と比べ圧倒的に情けない。 長くやってる人に比べて見劣りするのは仕方ないけど、それ以前に立ち姿がだらしない。 普段ならちょっと可愛くすら見える猫背が、ヒーローとしては致命的だ。 攻撃は三段突きからの回し蹴りをするだけ……だったが、横蹴りを一回に変更になったようだ。 敵が派手なアクションで倒れてくれるからそれなりに見えるけど……。 「日置くん……どうしよう。動き確認したくてスマホで撮ってもらったんだけど、僕、超カッコ悪い」 設営をしている俺の元にやって来て愚痴り始めた。 「昨日家で鏡見ながらやったときはもうちょっとイイカンジだったんだけどなぁ……」 「練習するしかないだろ」 「まあ、そうなんだけど、どこがダメなんだと思う?」 「どこって……」 南城のアクションはとにかくだらしない。 「こう、もうちょっとビシッと動きを止めて」 「こう……?」 俺が腕の振りの真似をすると、南城も同じように動く。 けど、なぜ止まった後に微妙にビヨンビヨンと腕が下がるんだ……? 「もうちょっと腕をビシッと止めて。腰を落としすぎるとグラつくから、そっちはちょっと下げるくらいで誤魔化せ」 「ええ……?もうしっかり下げるカンジで動きを体に入れちゃってるから……」 ……いやタイミングずれてるし。全然動きが体に入ってないぞ南城。 「どうしよう。話のネタになるかな~と思って、やるって言っちゃったのに、黒歴史として封印することになっちゃう……」 「とにかく本番まで練習するしかないだろ」 「まあ、そうなんだけど……。ねえ、日置くんもう一回決めポーズの見本見せて?」 「は?俺は本物を見たことがないし、お前を真似ただけなんだから、見本にされても困る」 「お願い!」 パンと両手を合わせて頭を下げられた。 「……しょうがないな。これで合ってるかどうか知らないんだからな?」 レッドを中心に立ち位置は左想定で……。 ビシッと……。 俺、椅子を並べてる途中で何やってるんだ……? 「サンキュ!とにかく練習あるのみだよね!やるしかない!」 パチンとウインクしてハイタッチしてくる。 南城は何かトラブルが起きても、いつも大体どうにかしてしまう。 決めポーズはかなりおぼつかないけど、今回もなんとかこなすに違いない。

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