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18/ラブちゃんは草食系2/日置くんは光合成したい

「やぁー南城くんから聞いたよ、今日は急にごめんね?」 「え……?あ、いえ、全然大丈夫ですよ」 ステージの前で椅子の設置作業が終わり、キャスターを片付けようとした時、いきなり声をかけられた。 ……誰だ? いや、スタッフなんだろうけど。 設営を指揮しているスタッフ以外は紹介されていないのでよくわからない。 とりあえず愛想よく笑っておけば間違いはないだろう。 「日置くん、今回初めてだよね?わからないこととかあったらすぐ聞いてね」 「あー……はい。ありがとうございます」 椅子を並べ終わったら一旦集合して次の指示をもらうことになっている。 取り立てて質問をするようなことはないはずだ。 「じゃ、こっち、いいかな?」 「え、でもこれ片付けないといけないんですけど……」 「ああ、大丈夫。ちゃんと連れてくって伝えてるから」 なるほど、別の作業があるから、わからないことがあれば質問するよう言われたのか。 そのスタッフにステージ裏に連れて行かれた。 さっき南城が練習をしていたところだ。 「あ、日置くん来た来た~」 「少しは決めポーズ上達したのか?」 「うん、もうバッチリ大丈夫だから!」 「ホントか?」 「日置くんがいれば百人力だよ」 南城が力強くガッツポーズを見せる。 「じゃ、流れは見てくれてるって聞いてるから、とにかく合わせちゃって、わからないところはそれから確認ね?日置くんが出るのは下手(しもて)からだから」 「えっ?」 「日置くん、ガンバ!」 南城がまたガッツポーズを見せた。 その手をぐっと掴む。 「ちょっと待て。どういうことだ?」 「ほら、みんな待ってるよ。日置くん、ガンバ!」 「『ガンバ!』じゃないだろ。これは……俺がグリーンをやることになってないか?」 「僕より上手いし適任だよね」 「さっきから『百人力』とか『適任』とか、ちょいちょいムカつく」 「なんでー?グリーンやれるなんて滅多にないよ?」 「別にやりたくない。お前の仕事だろ。職務を全うしろ」 ジャージの胸元を掴んで顔を覗き込むと、南城はわざとらしく目をそらした。 「ええー?日置くんの方が上手いもん。子供達の夢を壊しちゃいけないだろ?」 「誰がやっても夢が壊れる時は壊れるんだよ」 「話のネタになるよ?ほら、戦隊モノ好きな人とかに自慢できちゃうし。『俺グリーンやったんだぜ?』みたいな?」 ヘラヘラ笑って、全く悪びれる様子もない。 「戦隊モノ好きなんかどこにいるんだ」 「えー、これから観に来る人たちみんな戦隊モノ好きだよ」 「そういうことじゃなくて、身近に………身近………?」 その時、無邪気で愛らしい笑顔が脳裏をよぎった。 「しょうがない。ああ、しょうがなくだ。本物のキャストのみなさんを待たせちゃ悪いしな。代わりにやってやるからありがたく思え」 びしっと指をさすと、それにチョン!と指を当てられた。 「ヒオキン、ガンバ」 「お前、代わりにしっかり設営作業しろよ……?」 「ういー」 南城が敬礼をして見せる。 はぁ……呑気な顔だな。 ◇ グリーンは出ずっぱりだが、初っ端で捕まって(はりつけ)にされるので動きが少ない。 それに加えて南城仕様でかなり簡単になっていた。 流れをきっちり覚えて、言われたことを言われたままやるだけで、みんながホッとした顔で『初めてな割には上手いよ!』というセリフを連発する。 横蹴りにダウングレードしていた三段突きからの回し蹴りが復活。 敵キャストの皆さんが派手に飛んでくれるので、ちょっと気持ちがいい。 ステージ上での注意点は、何をしてない時でも気を抜かずヒーローっぽく立つというくらいだ。 猫背の南城はただ立ってるだけで既に何か違っていたからな……。 冒頭でグリーンが他のみんなとの約束を破って敵に捕まり、敵がなぜか約束を破ったお仕置きをするという、子供向けの教訓コミカルシーンは見せ場の一つらしい。 上半身を台に伏せた状態で、尻を叩かれるたびに足をはね上げてバタバタさせる動きだけは念入りに指導された。 これはかなり足腰がキツイ。 南城が役を降りた決定打は、みっともない上に体力的にもキツイこのシーンを上手くこなせなかったからに違いない。 けど、そのあとはまた磔にされ、グリーンのセリフが流れる時に頷く以外はほぼ休憩状態なので助かる。 そして握手会と撮影会での注意点を聞き、衣装を着る。 俺は少し背が高すぎるようで間延びした印象だ。 せっかく衣装を着たんだから、マスクを持って……。 顔のそばにマスクを近づけスマホで自撮り、煽りで自撮り、斜めからのキメ顔で自撮り、マスクにキスするポーズで自撮り。 「わぁ、日置くん余裕だね」 「戦隊モノ好きな人に自慢できると言ったのはお前だろ」 「全身撮って」 自然な立ち姿と決めポーズでパシャパシャ。 ふぅぅ……。 これで今日の仕事は全て終わった気分だ。 「意外~。日置くんナルシーなとこあるんだね」 ナルシストなんじゃない。全てはラブちゃんに『日置かっこいい!』と言ってもらうため。 じゃなきゃ大して練習時間も取れず、恥をかくだけとわかっているヒーローショーなんかに出るわけがない。 ステージ前のスッキリした顔と、ステージ後の汗だくで頑張った感の出ている顔を両方撮って、いい感じの方をラブちゃんに送るんだ。 ラブちゃんの行動確認も忘れない。 今日は家族で出かけると言っていた。うっかりステージを見られてしまったら、自慢げに写真を見せても『ああ、あのたどたどしいグリーン、日置だったのか!』なんて笑われてしまうかもしれないからな。 「あ、日置くんそろそろ出番だ。頑張って!」 「ま……子供の夢を壊さない程度に頑張るか……」 ◇ ステージは午前と午後の二回。 それなりに好評だった。 俺は動きも少ないし、他のキャストほど疲れもない。 けど、やっぱり身長が高すぎるみたいで、握手や写真撮影の時に迂闊に近づくと子供に怖がられる。 低めの中腰になるせいで、気付けば足の指とスネが痛くなっていた。 やたらとはしゃぐママさんたちも気になった。 遠慮なく尻をガン見するのはやめて欲しい。 お仕置きシーンでは本当に尻を叩かれたわけじゃない。けど、何かのはずみで破れてしまったんじゃないかと心配になって仕方がなかった。 イベント終了と同時に俺もバックステージで他のヒーローと写真を撮ってもらった。 俺だけマスクを脱いで顔出し。 もちろんラブちゃんに見てもらうための写真だ。 当然自撮りも忘れない。 そしてつつがなくバイトも終わり、これからが俺にとってのメインイベント。 南城に車でアパートへ送ってもらいながら、今日撮った写真の中からイケてる一枚を選んで……いや、一枚は選べない。 とりあえず、他のヒーロー四人と写っているものと自撮りの二枚をラブちゃんに送信!! はぁ……。 どんな反応が返ってくるか楽しみだ。

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