83 / 120
19/ラブちゃんは草食系3/日置くんは美味しく食べられるならいっそ節足動物になってもいいと思う
「いやぁそれにしても日置くんすごいよね。ちょっと練習したくらいですぐできちゃうんだもん」
「それは俺でも出来るレベルに変更してくれたからだ」
「ええ~。でも僕できなかったし」
「それは……なんでなんだろうな」
どんなことでもそつなくこなす印象だけど、意外な弱点発覚だ。
けれど他人に押し付けて問題解決というのも南城らしい気がする。
「そもそもなんで代役なんか引き受けようと思ったんだ?」
「え〜、今からじゃ代役を手配できないって困ってたし、『グリーンやったよ~』って写真アップしたらウケそうだし」
まあ、そんなもんだろうな。
「日置くんもさっき、すげぇマジになって写真選んでたっしょ?SNS?女の子に?」
「男だよ。戦隊モノが好きらしいから」
「またまたぁ~。ま、あの写真ならいろんなとこで使えるか。僕も日置グリーンを撮ったよ」
俺の写真をネタにみんなで盛り上がるつもりか。
自分がやらなくても、とにかくネタになればそれでいいんだな。
あ、そうか。
南城は草食系男子っぽい肉食系男子だと思ってたけど、雑食動物だ。
ネタを振り撒いてそれに寄って来た女の子を、まずペロリとひと舐め味見して、好みならパクリいただき、あわなかったら食わずにそろっと立ち去る。
いつか最高に好みの子が見つかれば恋人にという事なんだろうけど、コイツは自分の好みすらわかってなさそうだ。
そうやって考えると、俺は草食動物の中でもコアラだな。
ユーカリしか食べないコアラと同じで、これと決めたものしか受け付けない。
ユーカリ(ラブちゃん)が無くなってしまったら飢え死にだ。
はぁ、飢え死にでなく、肉食獣と化したラブちゃん食われたい……。
そのために南城の尻拭いでヒーローショーにまで出たんだから。
俺が戦隊ヒーローをやればラブちゃんが食いつくんじゃないかという浅知恵。
据え膳を食ってもらえないんだったら味付けを変えてみよう……というわけだ。
肉食獣だけど草食系男子なラブちゃんがグリーンな俺をパクリと美味しくいただきます。
ああ、なんて素敵な食物連鎖なんだ。
南城は車内に流れる曲にノリノリで半分踊りながら運転している。大声で歌っているけど、うろ覚えらしく歌詞のほとんどがホニャホニャだ。
「日置くん、イベントスタッフのバイト楽しかったでしょ?また暇があったらやる?」
俺に尻拭いをさせておきながら、悪びれた様子もない。
「土日が多いんだろ?それはちょっとな」
「えー。今、彼女いないでしょ?出会いもあるかもよ?」
「出会いは求めてない。むしろこれ以上いらない」
「ああ、日置くん肉食動物になりたいんだっけ?しっかり狙って確実に一匹づつ仕留めていくカンジか」
「仕留め……うーん。そうなる……のか?」
ただ微妙にニュアンスが違う気がする。
「食い溜めって発想がすごいよね。僕は付き合う子には誠実でありたいし、付き合ってから『違った!』ってなりたくないからお試しは必須だなぁ」
「付き合ってから誠実かもしれないが、付き合う前が誠実じゃないのはいいのか」
「いいんじゃない?付き合ってないんだし。それでクレーム来たことないし」
それは何を言われてもクレームだと思ってないからじゃないか?
まあ、トラブルになっているところを見たことないし、うまく立ち回ってるのは確かだろう。
「ところで南城。『食い溜め』という言葉をどう解釈してる?」
何となく誤解されてるような……。
「えー?だから、飽きるまで食い尽くして、バイバイみたいな?」
「いや、バイバイはしないから」
「お……おおう……。キープしといて思い出した時に骨までしゃぶるんだ?」
「いや、キープとかそういうのじゃなくて……。どうして俺には相手を取っ替え引っ替えしてるイメージがついてるんだ?」
「えぇ?それは日頃の行い?」
「取っ替え引っ替えなんかしてないぞ。女の子でも男友達と同じように友人として接しているし、まかり間違っても相手に気を持たせるような行動をしたことはないからな。なのに女の子が寄って来たと思ったら、唐突に去ってくんだよ」
「あー。まぁ、そんなカンジもあるねぇ。日置くん女の子に執着なさすぎっ!」
「女の子に執着なんか、する必要ないだろ」
俺にはラブちゃんがいるんだから。
「うっわー。強気!いつか刺されなきゃいいけどねぇ」
「何でだよ」
俺は一度だって不誠実なことはしていない。
故に刺される理由がない。
……まあラブちゃんになら刺されてもいいけど。
むしろ刺されたいんだけど。
その……いや、刃物とかじゃなくて……その。
……前回のアレやコレやからかなり日数も経ってるし、戦隊ヒーローの写真も送ったし、そろそろズップリ……があるんじゃないかなぁ……なんて。
はぁ。次にラブちゃんがウチにくるのはいつになるのかな。
部屋に戻ったらすぐに電話してみよう……!
◇
ああ、ラブちゃんが萌えている。
俺を褒めちぎってくれる。
電話でだけど『日置すげぇかっこいい!』なんて絶賛の嵐で、他の写真もないかと催促された。
今の戦隊モノのシリーズはあまり観ていないけど、それなりに知っているようで、ポーズがどうとか、変身のグッズがどうとか嬉しそうに話してくれて、俺もにわか仕込みの知識でなんとか応じて盛り上がることができた。
偏食コアラな俺の主食のユーカリ(ラブちゃん)は戦隊ヒーローのグリーンの写真で萌えて茂りまくりだ。
ラブちゃんの愛で美味しく肥えた俺をどうぞ召し上がれ。
俺はそんな気持ちでラブちゃんがウチに来る日を待った。
二日後、バイト終わりにラブちゃんが家に来てくれた。
いつもよりその時が楽しみで楽しみで、ワクワク、ウキウキ、ソワソワ。
ラブちゃんはいつも通りニコニコ笑顔でソファーに座って、缶ビールを開けてポテチに手を伸ばし……。
あれ……なんでだ…?
本当にいつも通り……なんだけど。
俺への萌えはどこへ行ったんだ。
「ラブちゃん。こないだの写メだけど」
「ん?どれ?いつの?」
「こないだの……」
「だからどれ?」
「その……いや。うん……なんでもない」
これは………。
まさかの、すでに無関心……。
あ…ああああああ……。
完全にしくじった。
ラブちゃんの反応を早く知りたくて即日写メしたあの日の俺を殴りたい。
熱く甘い夜を過ごしたいなら、ウチに来た時にあの写真を見せてラブちゃんに萌え萌えになってもらうべきだった。
ラブちゃんはといえば、俺のことを気にしながらもビール片手に黒糖の焼き菓子を咥えてモグモグしている。
俺は………何てことをしてしまったんだ。
上手くすれば今頃は、あんな黒棒 じゃなく、俺の棒状のモノをムグムグしてもらえていたかもしれないのに。
何のために公衆の面前で全身緑づくめになって、知らない奴に尻を叩かれる間抜けな演技を披露したのか……。
失敗した。
ああ、大失敗だ。
………そして我慢の限界だ。
イチャイチャしたい。
おさわりだけでもいい。
エッチな接触をしたい。
けど、ラブちゃんはTVでお笑い番組を見ている。
今ふれれば絶対嫌がられる……。
ローソファの隣に座って、腰をぎゅっと抱いて、肩に頬を擦り付けて……。
これがせいぜいだ。
TVを観てるから、キスも叱られる……。
はぁ……TVを観る邪魔にならないように、ラブちゃんのモノをパクッといただきます……とかダメかな。
……きっとダメだよな。
けど、したい……。
「はははっ!巨大シャコとか全然ゲテモノ食材じゃないって!なぁ、コレ絶対美味いよなっ」
ああ、ラブちゃんが美味しそうと言うだけで、テレビの中のシャコが猥褻物な大人のおもちゃに見えてしまう……。
巨大なアレでシャコシャコと……。
はぁ……俺の大好きなラブちゃんの無邪気な笑顔が……ツライ。
ともだちにシェアしよう!