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20/ラブちゃんは草食系4

日置が落ち着かない。 ビールの缶をキッチンに片付けに行って、中身がまだ入ってることに気づいてそのまま持って戻って……。 何なんだ???すごくそわそわしている。 座ってる俺の肩を抱いて、腰に手を回して、また肩を抱いて今度は手をウロウロ。 スマホを持って、置いて、持って……。 無言なのにすごくうるさい。 何かを目で訴えかけてくるけどよくわからないし。 「ちょっとシャワー浴びてくる」 そう言ってバスルームに行ってしまった。 でもオレが来る前に風呂に入ってたんじゃないのか?シャンプーの香りが強かったし。 うーん……日置どうした? ◇ はっ! TVがあんまり面白くなかったせいで、ウトウトとしてしまっていた。 はっ!? 日置が上半身裸でラグの上に正座している。 正面からのぞき込む妙に切実な顔が怖い。 これは……? うっ……ちょっと泣きそうな顔してないか? 意味もなくシャワーを浴びたのだって、多分落ち着かないからだよな。 つまり……? はっ!? もしかして別れ話的な……? 上半身裸で正座とか、浮気の現場に踏み込まれた男みたいだし。 いや、踏み込んでないけど。 明らかに普通ではない日置に、オレは微妙に逃げ腰になってしまう。 「えーっと、日置なんか……あった?」 質問するのにもビクビクだ。 「………ラブちゃん、写メどうだった?」 「は……?写メって……さっきも言ってたな。ええっと、どれ?」 日置がさらに泣きそうに顔を歪めた。 ええっ。どの写真のことだ? そんな悲痛な顔するような写真なんかあったか? 慌ててスマホを確認する。 国分くんや霧島が何の気無しに送った写真が実は浮気の証拠だったとか? いや、そんな写真はないよな。 「えーっと、ごめん。わからない」 あっ、ああっ……床に手をついてマジで泣きそうな顔やめろよ。 「えーっと何の写真……かな?」 「一昨日送った………」 口の中でもごもごと言う。 「……一昨日ってヒーローショーの写真?あれはかっこよかったけど……」 けど……散々かっこいいって言ったし、今更なに? って……あああ……にぱぁぁぁって笑って、ええ?どうした? ニコニコ顔でオレをじーっと見てくる。 「えーっと、ごめん。何言いたいか本当にわからない。ショーの写真はかっこよかったけど、それ以外は見てないし、オレの前でお前が裸で正座してる理由が思い当たらない」 「えっ?裸で正座?あ、いや、別にそんなつもりは」 サッとオレの横に座ったと思ったら、急にキメ顔になって肩を抱いてくる。 「っもう、何なんだよ」 イラっとしてその腕を振り払ったら、またしょんぼり顔をされてしまった。 ああ、手に負えない。 いや、オレもちょっと落ち着こう。 ふう……。 一つため息をついて日置に向きなおる。 「さっきからどうしたんだよ。写真ってヒーローショーの写真のことでいいの?」 日置がコクコクと頷いた。 「かっこよかったぞ?」 よくわかんないけど、とりあえず機嫌とっておこう。 その判断は正解だったみたいで、日置はニヘニヘと嬉しそうに頬を緩めた。 ……あれ?そういえば、こいつがカッコイイって言われて喜ぶなんて珍しいな。 普段は女の子にカッコイイとか言われても、当然みたいな顔して『ありがとう』とか言ってるし。 『ありがとう』じゃねぇよって思う。 オレだったら『えっ、いやそんな全然……。本当に?ふへへへ』だよ。 まあいい。 さらにご機嫌にさせるために、ちょっと首を傾げてのニコニコぶりっ子笑顔だ。 「あの写真はすげぇかっこよかったよ。でも、お前が何言いたいのか察するのは難しいかなぁ?もうちょっとはっきり言ってくれねぇ?……って、どわっっ!」 何で!? 何でボディプレス? からの……ヘッドロック!? ぶりっ子笑顔が通じない事態ってことか!? いや、違う。 「お前、プロレスしたくて上半身裸だったのか!」 「は?プロレス?」 「それならそう言え。オレにも心の準備ってもんがあるんだよ」 ぐいっと胸を押し返した。 「いや、いや、いや、いや、違う」 ギュウっとベアハグでしがみつかれる。 う……うぐ。 「じゃあ何?」 またグイっと押し返すと、やっと日置が力を弱めてくれた。 「いや、だから、その、い、イチャイチャしませんか?」 「はぁ?別にいいけど。さっきの写真がどうとかの話は何だったんだ?」 「いや……だから……。ラブちゃん戦隊ヒーロー好きだから……」 またモゴモゴはっきりしなくなった。 「うん、好きだよ。それで……?」 辛抱強く先を催促する。 「だから、その……カッコイイって言ってくれたし、ヒーロー姿を見て盛り上がった気分のままイチャイチャして、チュッチュ……からの、さらに盛り上がって……ソノ気になってくれるんじゃないかと」 「ならねぇよ!戦隊ヒーローのグリーン見てヤリたくなるって、オレのことどんな変態だと思ってんだ」 「いや、でも好きだって……」 「好きの意味が違うだろ。グリーンを想像しながらイチャイチャ、チュッチュでベッドインとか、すげぇ気持ち悪いよ」 「ええええ……そう……なの??」 ああ、リアルにグリーンとのベッドシーンを想像しちゃだめだ。じわじわダメージが広がって来る。 「オレの子供の頃の憧れを穢すな。チンコ勃ってても戦隊ヒーロー見たら萎えるって」 「そうか!……ピンクじゃないと……」 「そういうことじゃない!レッドでもブルーでもウルトラマンでも仮面ライダーだってエロい気分にはなれねぇの!」 日置が打ちひしがれてる。 でも、気持ちの悪い想像をさせた罰だ。しっかり反省しろ。 「じゃあ、どうやったらその気になってくれるんだ……」 オレに抱きついたまま遠い目をしてブツブツ言いだした。 「いかにもなホットパンツにタンクトップは違うだろうし……ボンテージ衣装も違う……」 違うってわかってくれてて安心したよ。 「壁ドン?お姫様抱っこ?後ろからのハグ?」 心の声ダダ漏れだな。 女子の胸キュンシチュエーションの再現でいきなりヤりたくなったらヤバイだろ。 それに『イチャイチャしませんか』なんて誘っておきながら、いつまで一人の世界に入ってるつもりなんだ。 余計なこと考えずにチュッチュ、エロエロすりゃいいだろ。 だいたいこいつ、ムードクラッシャーなんだよ。 いつも、ちょっといい感じになってもすぐにサッと逃げるし。 ……それも、多分わざとなんだろうけど。 日置は軽いイチャイチャは大好きみたいで、空気も読まずにベタベタしたがる。 だけど、それ以上のこととなると急にぎこちなくなってしまう。 いい感じになっても押し倒せばものすごく緊張し始めるし、敏感なところにふれれば身構えるように体を強張らせる。 『エロいことは大好きだけど、ヤられる側になるのに抵抗がある』ってのがひしひしと伝わってくるから、おいそれとは手が出せない。 オレも日置の気持ちを考慮して抑えてはいてるけど、まあ若いし?人並みにムラムラ来ることだってある。 最後までしなくていいから、ちょっとだけ……と思っても、必要以上にビクビクされたり挙動不振になられるとやっぱりへこむ。 そんな日置が、なんで今日急にヤる気になったんだろう。 ……あれ?違うな。 日置がヒーローの写メ送ってきたのが一昨日で、その時すでにオレがその気になるかもなんてアホなこと考えてたんだとしたら……。 えっ!? もしかして日置は二日前にその気になっていたけど、ヤる決心をつけるのに今日までかかってたってこと??? うわああ……まじか。 女相手ならヤリヤリでも、自分がヤられるのにはそこまで心の準備がいるのか!

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