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日置くんはイケている2

可愛いって単語に違和感があったけど、リラックス感と言われれば一理ある気もするので、言われた通りフードをかぶって脱いで、乱れ髪を演出してみる。 「じゃ、ソファに寝転んでこっち見て」 カシャっとシャッター音がする。 「ああ…やっぱ蛍光灯だとちょっと暗いな。ちょっと待ってて」 日置が白いパネルを出してきた。それをオレのまわりに立てる。 さらに電気スタンドを持ち出してパネルに光を当てた。 「お前、何してんの」 「いや、せっかくだからもうちょっと綺麗に撮りたいなと思って。ほら、こんなだから」 『こんなだから』と言って見せられた写真は、ちょっと暗く顔がくすんでいる程度でかなり綺麗に写っていた。 「コレで充分だろ」 いや、むしろコスプレもしてないのに可愛く撮れすぎてて気持ちが悪い。 「せっかくセットしたからこれで撮っていい?」 「ま、いいけど」 カシャっとシャッター音がする。 「ごめん、明るさの設定を変えてもう一枚撮っていい?」 「あー、いいけど」 「じゃ、うつ伏せで寝てこっち見る感じで」 「ああ……」 カシャっとシャッター音が。 「もう少しだけフードかぶってみて」 「ん、こう?」 「ああ、いいね。じゃ、次は肘ついて」 「ん…こんな感じ?」 「うん、すごくかわいい」 「可愛いって何だよ」 「あ、じゃあ、仰向けで肘掛に首を乗せてアゴが上がって少し頭が下がる感じで寝て」 「ん……」 「ああ、アゴのラインが最高に綺麗だ。ラブちゃん、Tシャツ脱いで素肌にパーカーでちょっと胸元開いたり……」 「Tシャツを……?って、おい。これ写メする為に撮ってるんじゃなかったのか」 「………………うん、だから極力親密さの伝わる写真がいいかなって」 おい、日置。 顔に『しまった』って書いてるぞ。 「もう充分だろ。早く送れよ」 オレもまぁまぁモデル気取りで写真を撮られてたってことが恥ずかしい。 「ラブちゃんどれがいい?」 画面で写真を見せられたけど……。 う…うぎゃぁぁ…何だよこのぶりっ子写真は。 ちょっと乱れた髪で上目遣いでカメラを見上げて……。 フワモコフードの破壊力がまたすごい。 普段のオレの写真とは仕上がりが違いすぎる。 「他は……」 あ…あああ……。 ダメだ。先に進むほど当たり前のように可愛い顔を作ってしまってる。 「フードでエラとかアゴ周りが隠れてるから女子っぽい。これ送ったら女の子がいると思われるんじゃないか?」 「エラくらいじゃ変わらないと思うけど。撮り直そうか?あ、素肌にパーカーで胸元開けてたら絶対女の子とは思われないよ?」 一瞬撮り直して貰おうかと思ったけど、考えてみたら女子と間違われても何ら問題ないんだよな。 むしろ女の子がお泊まりするんだと思ってくれた方がいいのかも? 「撮り直しはいいや。この頬杖ついてるので良いんじゃない?」 「え、これ?確かに可愛いけど」 日置が戸惑うのも当然だ。女子っぽいとか文句言ったクセに、アゴのラインが隠れてまるっきり女の子にしか見えない写真をチョイスしたんだからな。 「いいから、これ送れよ」 「わかった」 片手でスマホを操作しながら一眼レフに手をのばした。 「ついでなんで、こっちでも……」 「なんでだよ。やだよ。むしろ、さっきの写真も送ったら消せよ」 「…………」 日置がアゴにシワを寄せて口を尖らせている。 何だよこの顔は。拗ねてんのか? 「あんなのオレっぽくないだろ」 「え、いつもと同じで、すごく自然な写真だと思うけど」 「はっ、はぁっ!? どこが。すげぇぶりっ子してただろ」 「あー、ちょっとだけね。でもいつも可愛い表情を作って見せてくれるし、ラブちゃんが本気出したらこんなもんじゃないよね」 「何だそれっ」 「俺はこんな風にナチュラルなラブちゃんも、可愛く笑顔を作って見せて、その後ちょっとイタズラに笑うラブちゃんもどっちも好きだ。だから両方を写真に納めたい」 この写真の可愛い子ぶったオレをナチュラルと言われても違和感しかない。 しかもこれ以上に可愛い子ぶったぶりっ子顔って。 ちょっと見てみたくはあるけど……。 「やだよ。じゃ、写真消さなくていいかわりに、新撮もナシな」 興味本位で撮って、日置が言うように可愛すぎたら自分で自分が信じられなくなりそうだ。 「わかった。消さなくてもいいんだね!」 あれ?今、もしかしたら駆け引きに失敗した……? そんな疑問がよぎった時に、日置のスマホがメッセージの到着を知らせた。 日置はオレがそばにいるのも気にせず、メッセージを確認する。 『見栄をはるな。どうせ大人数いるんでしょ?』 あれ?なんか上から目線だな。 どういう文脈でこんなメッセージが……? 確認しようとしたけど、珍しくムッとした様子の日置がウロウロし始めて前のメッセージは読めなかった。 そして急にスマホをかざし、ゆっくり回り始める。 あ、もしかして他に人がいないって証明するために動画録ってる!? スマホのカメラがソファの上のオレを捉えた。 と思ったら、オレの隣にドスンと日置が座り、スマホに向けて顔をしかめ舌を出した。 撮り終わってすぐイライラを隠さずメッセージを打っている。 「見栄なんかはってねーよ!もう連絡してくんな」 ブツブツ言いながら送信した。 まるで子供の喧嘩のような日置にビックリだ。 「大丈夫なのか?」 「え?ああ、大丈夫。まだ終電までに何本か電車あるから」 「いや、そうじゃなくて。あんな動画……」 せっかく女子っぽい写真を送らせたのに、動画にしたら男だって丸わかりじゃないか。 「あ、そっか……ラブちゃんの肩を抱いて見せた方が説得力あったかも」 ええ?そうじゃないだろ。 って言うか、やっぱり今彼女が来てるからみたいなメッセージを送ってたって事だよな。 それに対して『見栄をはるな』って……。 なかなか強烈な子だなサクゾウは。 「ラブちゃん、もう一回最後のシーン撮り直したいんだけど」 「なんでだよ。もう送っただろ?」 「動画じゃなく写真で」 「だからなんでだよ」 「う。本当は………ツーショット写真を撮りたい……だけです」 なんで正直に言わないかな。 素直じゃない態度を見せられると、ちょっとイジメたくなるじゃないか。 「ツーショットは前に撮っただろ?」 「いや、素のラブちゃんとのラブラブな写真の一枚くらい……」 「なんでだよ。オレたちのラブラブ写真なんか気持ち悪いだろ」 軽い調子で言ったオレの言葉に日置が泣きそうな顔をした。 「前から思ってたけど……ラブちゃん、俺の顔……かなり……キライだよね………」 「はっ?」 「素朴であまりメリハリのない顔立ちの方が好みだよね」 「え……」 確かにその通りだけど、なんでそんなこと気にするんだ。 「日置、別にお前の顔、嫌いじゃないぞ?カッコつけてるときはムカつくけどもう見慣れたし。単に微塵も好みじゃないってだけだから心配するな」 「いや、心配するなって言われても、それじゃ全く安心できないよ」 「顔が好みだってだけで好きになるわけじゃないだろ?まさかお前、顔が好みのヤツ手当たり次第に手ェ出してるわけ?」 「え、いや、まさか!でも、でも……ラブちゃんは南城と俺だとどっちの顔の方が好き?」 南城って日置と仲が良くていつも一緒の奴だよな。 地味だけどイケメン。 けど、どっちって言われてもなぁ……。 「なんで比べないといけないのか意味がわからない。どうでもいい」 「じゃ、国分くんと俺だと?」 「国分くん」 あ、しまった。ちょっと即答すぎた。 「……まあ、国分くんならいいか」 「いいんだ?」 「はっ、いや、そうじゃない、だから写真。俺と一緒に写るの嫌?」 情けない表情でオレをじ~~っと覗き込んでくる。 うう……。 いちいち許可取らずにさりげなく撮ってくれればいいのに。

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