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日置くんはイケている5

前話の前の日のお話 ―――――――――――― バイト終わりに国分くんと軽く飲みに出た。 国分くんがまたお客さんに教えてもらったという、ゴシック調の飾りがあったり、謎の置物のあるオシャレすぎる居酒屋さん。 壁紙は面ごとに違い、インパクトの強いストライプや花柄で圧倒される。 国分くんがここに来たがったのは、もちろんオシャレだからじゃない。 こんなオシャレなお店なのに、ネギ盛り甘酢かけの唐揚げが美味しいと聞いたからだ。 少し小ぶりの鶏の身だけの唐揚げに甘酢がかけられネギがたっぷり。 「はぁ……この頭がおかしくなりそうにオシャレな内装も気にならいくらい美味しい唐揚げだね」 華麗すぎる西洋唐草模様の皿に盛られた砂ずりの素揚げも美味しい。 ビールはワインのように足の高いグラスに入っていて、うっかり倒してしまわないか心配になる。 「揚げ餃子も食べたいなぁ」 店の雰囲気の割にがっつり居酒屋料理なのでついついビールがすすんでしまう。 「ところでさ、日置、最近どう?」 「え……どうって……」 細かく言えばそりゃ色々あるけど、わざわざ国分くんに報告するようなネタはない。 「あ、そう言えばあいつ家に入るのに靴下脱げとか言い出したんだよ。自分でも嗅いで確認してみたけど、靴下全然臭わないし、絶対そんな汚くないはずなのに。ずっと前にもみんなで雑魚寝してた時にオレだけ靴下履かされてたことがあってさ、すげぇムカつく」 「ははっ。そうなんだ?それは知らなかった」 「えっ?『それは』って…オレそんなしょっちゅう日置のこと話してないよね?」 「実は結構前から毎日のように日置から連絡が来てるんだよね」 「はっっ!? え、国分くんのところに?日置と何の話するの?」 「それはもちろん伊良部(いらぶ)くんのこと」 「はぁああ!? そんなこと全然聞いてない。てか、何?具体的にどんなこと?」 国分くんはビール片手にくふふと楽しげに笑っている。 「もうね、笑っちゃうくらい小さいこと。なに話したかな~?同じようなこと何回も聞いて来るし。嫌いな野菜を知らないかとか、ポテチのチョコがけは大丈夫だろうかとか。食べ物のことが多いかな。あと香水変えたけど、その香りを嫌ってなかったかとか?」 え……香水変えたとか全然気づかなかったけど……。 「そんなの全部オレに聞けばいいのに」 「うん、僕もそう言うんだけどね。伊良部くんが優しいから気を使って正直に言ってくれないかもしれないとか色々理由つけて聞いてくるんだよね。で、こっちの方がいいんじゃない?とかほんのちょっと助言したら、今度はお礼メッセージが来るし」 「わぁ……なんか、ごめんね」 「うん、正直うっとおしいけど、伊良部くんが前に言ってたちょっと変なとこっていうのがわかったし、とにかく伊良部くんに気に入られたくて必死なのは僕も嬉しいから」 「そんなことで国分くんに迷惑かけるとか……。あとで日置に注意しとくから」 「日置が本当に気になってることなら僕もちゃんと答えるんだけど『それもう前に聞いたよね?』ってことを不安解消のために聞いて来るのはやめて欲しいかな」 日置の奴、国分くんに何相談してんだよ。すげぇ恥ずかしい。 オレ、食べ物にこだわりなんか全然ないし、香水だって気にしたことない。 はっ……なんか他に変なこととか相談したりしてないだろうな!? 心配になって、ばっと国分くんを見た。 「あー、大丈夫。日置の相談って伊良部くんの好みに関することばかりだから。二人の間の生々しい話とかそういうのは相談されたことも、僕が聞き出したこともないよ」 ほんのりビールで赤いニコニコ菩薩の笑顔をくれた。 「あいつ……見かけによらず、ほんとバカだろ?」 「うん。だから僕は前よりちょっと好きになったかな。何やらせても要領いいのに、伊良部くんに関することだけは必死で面白いよね。絶対1ヶ月経たずにダメになると思ったのに、今じゃうっかりすると僕の前でもデレっとしてしまって慌てて取り繕ったりしてる」 「……あれ?『オレと日置が付き合ってること、国分くんが知ってる』って、日置は知ってんのかな?」 「話してないの?」 「うーん、そういったことは日置と一切話したことないな。付き合い隠すつもりかオープンにするつもりかとか……全然」 「あー。僕から見ると、二人とも隠すつもりもオープンにするつもりもないように見える」 「え、どういうこと?」 「知られたら知られたでしょうがないか、みたいな」 確かに国分くんに知られた時はそんな感じだったけど……。 「まあ『僕たち付き合い始めました』なんて宣言して回るカップルの方が少ないだろうし、それでいいんじゃない?」 「そう……だね」 国分くんに言われると、なんだかそんな気がしてくる。 まあ、酒が入ってるからあまり頭が回ってないっていうのもあるけど。 「伊良部くんの愛されっぷりに乾杯!」 「え、やめてよ!」 国分くんがオレのグラスにチョンとグラスを当ててビールを飲み干した。 オレのビールも残り少ないから……。 「えーっと、お願いします。ビールおかわり……」 近くの店員さんに追加注文のため手をあげたその時。 「あれ、ラブちゃん?」 え………? オレをラブちゃんって呼ぶ人間といえば……。 「わぁ、こんなとこで偶然!」 「え、この子がラブちゃん?全然写真と違うんだけど」 テンプラ(さつま揚げ)みたいな顔の男と、ツヤツヤストレートの黒髪の男。 …………。 「……え、いや、誰?」 「伊良部くん知り合いじゃないの?」 じーっと顔を見るけど……。 日置以外でオレをラブって呼ぶのは中小学校で特に仲の良かった友達だけだ。いくらアルコールが入ってるとはいえ、わからないはずがないんだけど。 「ほんと偶然、一緒にいいかな?」 「え………」 許可していないのに、二人は勝手に同じテーブルについてしまった。 「ビール4つお願いします!」 「あ、ビール1つナシ。ボクはシンデレラで」 さらに問答無用で注文まで。 表情から察するに、二人はすでに飲んでいるようだった。 「おれ、ラブちゃんと一回ちゃんと話ししてみたかったんだよね」 テンプラ野郎のご機嫌なセリフにオレの顔がひきつる。 やっぱりそうか。 勝手に同席しておきながら、こいつら全然知り合いじゃない。 「ボクなんてちゃんと見るのも初めてだし」 ……だからお前らは誰なんだ。

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