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日置くんはイケている6

「えーっと、二人は伊良部くんのこと知ってるみたいだけど、僕は初対面だから自己紹介してもらえると嬉しいんだけど」 知らない奴らの厚かましさに驚きすぎて何も言えなくなっていたオレの代わりに、国分くんが話を繋げてくれた。 「ああ、おれは日置の一番の親友で川内(せんだい)って言うんだ。日置とラブちゃんと同じ大学に通ってる」 え…?同じ大学……??? 日置と一番仲がいいのは南城だろ? でも確かに……日置と一緒にいるところを見たことがあるような……ないような……。 「で、こっちは日置とパートナーのエンコくん」 エンコくんと呼ばれた黒髪のおちょぼ口男は気取った笑みを浮かべチョロっと頭を下げた。 ………エンコ……くん? 「……あ、なんか聞いたことある……気がする」 けど、パートナーって……? 「伊良部くん知ってるの?パートナーって何?」 「えーっと……なんか記憶をくすぐられるんだけど、酒が入ってるからすぐに出てこない」 「そう、ボクを知ってて思い出せないなんて、かなり酔っちゃってるんだね。ボクとサツマくんはモデルとカメラマンとして、最高に相性がよくてさ。もうパートナーと言っていいほどだよ」 「えーっと『サツマくん』って話の流れからして日置?日置ってカメラマンなの?」 「趣味で写真撮ってるだけ。……多分パートナーでもない」 国分くんだけに聞こえるようにコソコソと言う。 川内はよく分からないけど、エンコくんの事は思い出した。 コスプレバスツアーの時に名前だけ聞いた、勝手に日置とカップル扱いされてた男のコスプレーヤーだ。 これがエンコくんかー。 なんかちょっとめんどくさそうだなぁ。 『パートナー』なんて言うくらいだから日置に執着してるんだろうし、その上、酒も入ってる。 「ねぇ、ラブちゃんってさあ、足が自慢なんでしょ?見せてよ」 「はっっっ???」 エンコくんが椅子を立って近寄ってくる。 「へぇ、伊良部くん足が自慢なの?」 「いや、全然。自慢とかしたことないし」 「またまた。そういうのいいから。サツマくんがラブちゃんは足だけはいいって褒めてたんだよね。でも絶対ボクの方が細いと思うんだ。比べてみようよ」 足だけはって……。 「別にオレの足、細くないし……」 「そうだよね、いきなりこんなとこで見せてって言ってもダメだよね?じゃあ、勝負しようか?飲み比べして、ボク勝ったら見せて。先に二杯飲み干した方が勝ちね?川内、ボクのもう一杯頼んでて。じゃあ用意スタート!」 「え、ちょ、勝手に……嘘だろ?」 つい、つられてグラスに口をつけてしまったけど、炭酸の早飲みは得意じゃない。 ゴクゴクと、ビールが喉を通っていく。 一気とはとても言えない、ちょっとハイペース程度だ。 大して無理をしてないので、普通に美味しい。 最初はかなり急いで飲んでいたエンコくんもオレの飲む様子を見て少しペースを落とした。 けど、ズルい。 オレのビールはグラスだとはいえ生中と同じくらいの量だし、続けて二杯はキツイ。 なのにあっちは炭酸なしのカクテルで量も少ないじゃないか。 結局エンコくんは追加注文した次の一杯が来るまでちょっと待っても、余裕でオレに勝利した。 「伊良部くん、ビックリするくらいゆっくり飲んでたね」 「んー、一応早く飲む努力はしたけど、その日の最初の一杯でもないのに勢い良く飲めないよ」 国分くんは、オレが挑発に乗せられ一気飲みをやらかさなかった事に安心してるみたいだけど、つられてしっかり二杯飲んじゃってるからな。 ……て、あれっっ??ドリンクメニューに……。 エンコくんが飲んでた『シンデレラ』ってノンアルコールって書いてるじゃないか! ズルいっっ! 「ボクの勝ちだね。じゃあズボン脱いで足見せて」 「ヤダよ。何でだよ。店の人に叱られるだろ」 「男に二言(にごん)はないでしょ?」 「何の約束もしてないし」 「んーと、追加でビール二杯とタコの唐揚げお願いします」 国分くんはもう全て終わったかのような顔をして追加注文をしている。 でも店員さんを呼ぶことによってエンコくんが無茶な事をしないよう牽制してるのかもしれない。 「で、日置はどんな写真撮るの?」 「ああ、普段は建物や小物とかだけど、おれが誘えばたまに人物も撮るんだ」 国分くんの質問に川内って奴が妙に自慢げに答えた。 けど、意外だ。日置のメインの被写体をちゃんと知ってるってことは本当に仲が良いんだな。 「でこっちのエンコくんはモデルさん?」 「ええ?あ、うん、そうだね。プロではないけどね」 国分くんの言葉に嬉しそうに笑ってる。 「読者モデルとかいうやつ?」 「んー、雑誌にも何回かは載ったことあるよ。海外で新聞に写真が載った事もあるし」 それからエンコくんが嬉しそうに喋り始めた。 街で見かけたイケメンとか、海外のイベントでコスプレしてるところを撮られて新聞に載ったとかそんなことみたいだ。 そして自分の写真を見せようとスマホ取り出した。 確かにコスプレ写真は凝ってて凄いけど、化粧が派手でほとんど誰だかわからない。 いや、今ももしかするとちょっと化粧してるのかも。 カラコンが入ってるし、眉毛も描いてるよな。 「わぁこの写真凄いね」 国分くんくんのピュアな反応に気を良くして、エンコくんの写真解説が止まらない。 オレはアルコールがまわって眠くなり始めてしまった。 さっき無理に飲まされる前にすでに二杯飲んでたからな。 それにエンコくんのマニアックな話に興味もわかない。 知らないゲームの世界観と知らないキャラの衣装のこだわりとか、何を言ってるのかさっぱりだ。 国分くんはうんうんって聞いて優しいな。 色々話をさせ、オレのズボンを脱がそうとしてた事を忘れさせるつもりなんだろう。 「で、日置はどの風景を撮ったの?日置の撮った風景に人物を合成してるんだよね?」 国分くんもエンコくんの話は全く理解出来てないみたいだ。 ふぁ……もう、眠いし、話にキリがついたら……帰りたい……なぁ。 ◇ 「ん……暑い」 「ほら、だったら下も脱いで」 「……めんどい」 「もう、しょうがないなぁ。だったらボクが脱がせてあげる」 ボーッとした頭で考える。 体がカッカするのは酒のせいだ。 あれから何杯飲んだっけ? あれ?会計どうした? てか、ここどこだ? 店を出てそれからどうしたんだっけ? 目の前のこの顔はエンコくんだ。 まあ、キレイと言えばキレイなんだよな。 ちょっと女みたいだ。 いくつなんだろう。多分オレよりは上だ。 「ほら、腰あげて」 「ん」 あー、オレソファで寝てんのか。 ここどこだ?どっかマンション?なんとなく一軒家の雰囲気じゃない。けど高そうな部屋だ。 「ほら起きて。ボクを満足させてよ」 なんでオレこいつを満足させないといけないんだ? 疑問に思いながらも酔っ払いなオレは、されるまま、求められるままエンコくんの言葉に従ってしまった。

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