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日置くんはイケている7

ここ数日、日置にあまり会ってない。 知り合いに何かの手伝いを頼まれているらしく、一週間ほど二人でゆっくり会う時間が取れなくなるとか言ってた。 だからオレはバイト終わりに国分くんと飲みに行ったんだ。 けど、その後くらいから日置に避けられている気がする。 そしてオレにはその理由に心当たりがある。 エンコくんとかいう変な男だ。 みんなで飲んでそれからどうなったのか、切れ切れにしか記憶がない。 なぜかエンコくんの部屋にいたことは覚えている。 どうして国分くんと一緒に帰らなかったのがすごく不思議だ。 そして言われるままに服を脱がされ……。 はぁ……。 思い出したくない。 ていうか、あまり覚えていない。 誰でもウェルカムな日置が珍しくエンコくんを苦手としている。 なのにそのエンコくんの家にオレは連れ込まれてしまった。 日置の様子がおかしい理由はこれじゃないかと思う。 エンコくんは日置への当てつけでオレを自分の家に連れ帰ったんだろうから。 けどそれをはっきり問いただすことができない。 オレがエンコくんの家に連れ込まれたことを日置がまだ知らなかったらやぶ蛇になりかねないからな。 「……ってわけで、国分くん日置から何か聞いてない?」 「うーん。日置が僕に相談するのって『ラブちゃんオニオンチーズ大丈夫かな?』とかそんなレベルの話だけだから。あ、でも最近伊良部くんと飲みに行ったかって聞かれたね」 ……これは……。 知ってる……。 「あああああ……」 バイト前なのに暗くなってしまった。 明るいファストフード店なのがまだ救いかな。 これがバイト後、国分くんと居酒屋に行った時だったりしたら、潰れるくらい飲んでしまいそうだ。 「飲んだ後みんな交差点で一斉にサヨナラしたから、なんで伊良部くんがエンコくんの家に行っちゃったのか僕も知らないんだ。なんか……ごめんね」 「いや、いや、それは国分くんが謝ることじゃないから。オレが……ガードが甘すぎた」 「まあ、いつもガードなんかしてないしね。……あ、ごめん」 「……うう」 「で、連れ込まれて、なんかあったの?」 「うーん、切れ切れの記憶をつなぐと、服脱がされて、写真撮られた……気がする。多分それ以上はないと信じたいけど……わかんね」 「あー、写真か。何もなくとも、充分何かあった証拠になっちゃうね」 優しく慰めるような口調の国分くんに、ダメ押しされてしまった。 「日置が知ってるにしろ、知らないにしろ、早めに二人で話をした方がいいと思うよ」 「そうだよな。はぁ…嫌だなぁ。ねえ、国分くん、今日バイト終わりでストレス解消として飲みに付き合ってくれない?」 「またエンコくんに会うかもよ?」 「……うわぁ……。バイト終わってから日置と話そうかな」 「それがいいよ」 国分くんが微笑みを浮かべ、角煮バーガーにかぶりついた。 はあ……。癒される。 今のオレには国分くんの微笑みだけが救いだ。 ……いや、このイカバーガーも癒しだな。 はぁ。うまっっ!!! ◇ 日置はバイトの出勤日ではないので、仕事終わりに直接アパートに向かった。 連絡も入れずに行ってしまったのは、やっぱりどこか顔を合わせづらいと思ってるからだろう。 道路からアパートを見上げると、日置の部屋に明かりがついていた。 駐車場を横切りゆっくり玄関側へと回る。 けど、その短い時間で日置の部屋の明かりが消えてしまっていた。 まだ寝るには早いし、アパートの駐車場を反対回りに通ってコンビニにでも行ってしまったのかもしれない。 メッセージ……送った方がいいかな。 日置の部屋の明かりが消えただけなのに、オレの胸にも闇が忍び込んで来そうで怖かった。 そのままドアの前で十分ちょっと粘ってみたけど日置は戻ってこない。 けど、コンビニに行ったのなら戻ってきている途中なのかも。 そこ以外に行っているなら戻ってくるのがいつになるかわからないし……。 結局オレはドアのそばを離れ、念のためコンビニの前を通って帰ることに決めた。 駐車場を通り抜けているときにこちらに向かってくる女の子が目に入った。 多分同世代だ。背が高く、派手な顔立ちでゆるくウエーブした長い髪が印象的。 この子、何度か居酒屋に客として来てるのを見かけたことがあるような気がする。 すれ違う際に会釈をすると、ちょっとだけ(いぶか)しげな顔をされてしまった。 しまった。派手な子だからこっちは見覚えがあるけど、向こうは何度か行った居酒屋の店員のうちの一人なんか覚えているわけがない。 夜道で知らない男に挨拶されたら警戒して当然だ。 うう……恥ずかしい。 結局コンビニにも日置はいなかった。 オレは何やってるんだ。 気まずい話をしに約束もなくアパートに行って、知らない女の子を怯えさせ、さらに気まずい思いをしてしまった。 「もしもし~国分く~ん」 トロトロと夜道を歩きながら電話をかけた。 『ん、どうしたの。声が暗いよ』 「何もない。日置にも会えてない。なーんも変わってない」 『何それ。日置を呼び出せばいいのに』 「んー。会えないなら、会えないでもいいかなって思ってたら、本当に会えなかった」 『何やってんの』 「何やってるんだろうなぁ」 『明日は日置バイトだろ。明日こそ話しなよ?』 「うん。あのさ、さっき日置のアパートの駐車場のとこで、何度か居酒屋に来たことある綺麗な女の子を見かけたんだ」 『……何?なんかロクでもないこと考えてない?』 「……国分くんの想像通り……かも?」 『大丈夫だよ。日置って伊良部くんに聞いていた以上に馬鹿だから。嘘ついて二股とか、当て付けで浮気とかそんなことできないと思う』 「え…えええ……なんとなくの不安をそんなにはっきり言葉にしないでよ」 『だから大丈夫だって。自分に好意を向ける女の子にはそつなく対応するのに伊良部くんにはすごく不器用だろ?』 ………国分くん、女の子にそつなく対応するとか言われちゃ全然安心できないから。 不安は解消されてないけど、国分くんの声を聞いただけで少し癒された。 とにかく明日こそ日置と話そう。 そういえば少し前にノリでやった占いに出てたっけ。 『プライドの高いあの人に「裏切られた」と感じさせてしまうと、修復はとても困難なものになります』 はぁ…国分くんも占い結果を見て意思疎通が大切だって言ってたっけ。誤解がこじれて手に負えないことになってしまわないよう、日置とちゃんと話さないとな。

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