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日置くんはイケている12
「何これ……酷いね」
う………。
桜ちゃんがチラチラとタブレットとオレを見比べる。
「これは俺への挑戦だ。売られた喧嘩はしっかり買ってやる」
『なんでこんな時間に』という疑問の答えは全然出ていないけど、桜ちゃんは何故かこれで納得してしまったようだ。
なんとなく兄妹の阿吽の呼吸みたいなものがあるのかもしれない。
「どうしてラブちゃんはこんな写真オッケーしたの?」
……ラブちゃんって呼ぶのか。いや、当然か。桜ちゃんはその呼び方しか知らないし。
「オレはオッケーした記憶はないし、まだ写真も見てないから」
桜ちゃんがタブレットを受け取りオレに見せる。
「顔が白く飛んじゃってるのに、赤らんでるのがわかるし、カツラも少し正面からずれてる。ボトムスのボタンは外れかけ。……酔っ払ってる?」
「……あ…うん。酔っ払ってるね」
見せられたのは最初予想していた『ヤバイ写真』とは大違いの、がっつりコスプレ写真だった。
まあ日置の反応から、とっくにわかってたけど……。
ソファーにだらしなく座る白いハーフパンツのオレがぬぼーっとした顔でカメラを見ている。
間抜け面にピンクで長髪のカツラが全く似合っていない。
宴会の余興で酔っ払ってバカやらかした後の抜け殻状態って感じだ。
隣にはバッチリメイクで青いカツラをかぶり、しっかりポーズをつけて立つショートパンツのエンコくん。
この対比はさすがに酷すぎる。
「蛍光灯なのが丸わかりで画質も悪いね。ラブちゃんがこんな酷い写真アップされてるのに、喧嘩売られてるのはハーの方って、一体何やらかしたの」
「あ、そうだよっっ!お前エンコくんに何したんだよ」
詰め寄るオレの背中を日置がそっと押した。
そのままクラシックな壁紙風ロールスクリーンの前に立たされる。
「以前飲みで一緒になった時にラブちゃんの足の素晴らしさについて話しただけだ。けどあいつは自分の方が足が細いと自慢げに言うんだよ。でも細ければいいってわけじゃないだろ?それと撮影会をしようと言うのも断った」
「え………そんな……そんな……そんなくだらないことでオレは部屋に連れ込まれてあんな写真を撮られたのか?」
日置はオレをちょっと眺めて、ライトの位置などを調整し始めた。
「ああ、くだらない。こんな写真で自分の美脚をアピールしたって、画質の悪さの方に目がいく」
なんかオレの感情にフィットしない意見だけど、確かにその通りだ。
「ん……?ちょっと待て。そのくだらない喧嘩が原因のこんなダメ写真に対抗して今から写真撮るのか?」
オレの言葉が聞こえないフリをして日置はカメラを構えた。
けど、それを桜ちゃんが制した。
桜ちゃんもエンコくんだけじゃなく、日置にも問題ありだって思ってくれてるのか?
「裸足はちょっと変じゃない?……ハイヒールとブーツがあるけど」
「え、そっち……?」
「え、裸足が良いいんじゃないか」
オレと日置の言葉を無視して、桜ちゃんが黒い靴を二足差し出した。
桜ちゃんの親切心からくる行動を拒めるようなオレじゃない。
「じゃ、ブーツで」
ハイヒールは履いたことないから怖かった。
普段履く男物のブーツと比べるとかなり細身でかかとは高いし、サイズも小さくて先がギチギチだ。
なんでこんなことに……。
状況に疑問があるから、カメラを構えた日置を見る表情がどうしても憂鬱になってしまう。
「ああ…さすがラブちゃん。もうしっかりキャラが憑依してるね」
即シャッターを切られた。
「あ、そうなんだ、嫌がってるのかと思った」
「まさか、嫌ならちゃんと言うよ。ね、ラブちゃん」
ちゃんと言えなかった自分に苦笑いしか出ない。
そこをすぐにパシャリと撮られた。
「ほら、いい表情だ」
「ふーん」
その『ふーん』がどういう意図なのかよくわからないけど、桜ちゃんは楽しそうに撮影を眺めている。
日置は足の置き方などポーズ指示をして何枚か撮った後、興味深げに撮影を見ていた桜ちゃんにタブレットの画面を見せた。
「お前も入れ。ちょうど髪の長いキャラがいる。白いVネックTシャツにタイトなダメージデニムだから服もあるだろ」
「え、いいの?楽しそう。着替えて化粧なおしてくるね」
桜ちゃんはあっさり了承して、日置の寝室に引っ込んでしまった。
オレ一人だけ現状についていけてない。
桜ちゃんがいなくなった途端、日置の顔がデレデレと崩れた。
「えーっと、じゃ、後向きでちょっと前かがみの振り向きポーズお願いします」
パシャリ。
「ラブちゃん、いいっっ!膝は伸ばしたまま、もうちょっと…もうちょっと前かがみで……」
「こう……?」
「うん!じゃ、次膝ちょっと曲げて」
「ん……。あ…そう言えばお前、膝裏好きって言ってたな」
「はうっっ……!!ぁあ…」
オレの指摘に日置が明らかに動揺し、カメラを取り落としそうになってジタバタしている。
「お前、妹がいない間に、ちょっとエロい写真撮ろうとか思ってない?」
「い…ぃや…まさか……」
声が裏返ってるぞ。
「足が綺麗に見える写真にしたいから、座ったのもいいかな?ちょっとだけ膝立てて後ろ手でくつろぐ感じ」
後ろ手をついて座り、ちょっとサービスのつもりで少しのけぞって足を組むと日置が目をキラキラさせてシャッターを切った。
「はふ…ラブちゃんっ、可愛くてセクシーだ」
見せつけるように足を浮かせるとまたシャッターが下りる。
四つん這いになったら、日置も一緒に寝転がって撮ってる。
「ぁあっ…もう…天使っ!天使っっ!」
「ハー、キモい」
戻ってきた桜ちゃんが、日置の腹を踏んだ。
「こら、何するんだ」
「あれー?なんか床に落ちてたからうっかり踏んじゃった」
桜ちゃんは全く悪びれる様子もなくオレの横に立つ。
「日置、腹大丈夫か?」
すぐに文句が言えるくらいだから、そこまで痛くなかったんだろうとは思うけど。
「あ…うん。ラブちゃんを見ながら踏まれたからね」
「え……どう言う意味だそれ」
「ハー、キモい。セクハラ」
…セクハラって……桜ちゃんオレのこと女の子扱いしてないか……?
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