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日置くんはイケている13

桜ちゃんはオレにニコリと笑ってからクールな表情を作った。 美人だからかなりの迫力だ。 オレが日置を見るとすぐにシャッターが切られた。 さらに二枚ほど撮って気づいた。 桜ちゃんは少し横向きになったり、後ろ向きから振り返ったり、必ずオレよりほんの少しでも後ろに来るようにしている。 「桜ちゃん前に出たら?」 「私、絵面を賑やかにするためのオマケだから。セットとか小道具だと思ってくれる?」 小道具にしては迫力ありすぎだけど、日置も小さく頷いてるからそれでいいんだろう。 兄妹だけあって細かく説明しなくても桜ちゃんは日置の意図を汲むのが上手いようだ。 後ろに立った桜ちゃんがオレの肩に手を置いて、反対の肩に軽く顎を乗せた。 え…近い……近い。 しかも、すげぇいい匂いするし……。 今度は横から腰に手を回してくる。 さらに頬を寄せたり肩をぶつけたり、コスプレ写真のはずだったのに、なんかファッション雑誌みたいなノリだ。 確かに桜ちゃんには断然そっちの方が似合うしな。 けど、日置……。 霧島と手を繋いだだけでヤキモチ妬くとか言ってたくせに、目の前で桜ちゃんとこんなベタベタしてても全然気にしてないんだな。 まあオレも最初少しドキドキしたけど、二人があまりにも平然としてるから、普通にモデル気取りで撮影してしまってるけど。 「桜ちゃんすごく慣れてるね。もしかしてモデルのバイトとかやってる?」 「まさか。通ってる美容学校の学祭でショーをやるからモデルの練習させられただけ。ちなみにハーも私の友達にカットモデル頼まれてるの。ラブちゃんも見に来ない?」 「……余計なことを」 日置が露骨に嫌な顔をした。 「なにそれ、オレに見られて困るわけ?」 「そうよ、ラブちゃんにも頼んだ私の友達にも失礼」 「……困る…って言うか、カットモデルなんかしてるとこ見られたら、ラブちゃんに気取ってるとか、カッコつけてるとか、調子乗ってるとか……思われそうで」 あー……それは。うん、思うな。間違いなく。 「なに言ってんの。ハーが気取って、カッコつけて、調子乗ってるのなんていつものことじゃない。ねぇ~ラブちゃん」 あ、しまった。思いっきり頷いてしまった。 日置がわかりやすくヘコんでいる。 その反応に桜ちゃんがちょっと驚いた顔をした。 そして小さいけれど弾んだ声でオレの耳元で囁く。 「自信家のハーが友達の前でヘコむとか……珍しい!本当にラブちゃんのこと大好きなのね」 ふふっ!っと嬉しそうに笑った。 その言葉にオレの心臓が小さく跳ねた。 脈もトクトクと強く打ち始める。 これは……もしかしてオレ、喜んでるのかな。 いや、喜んでる場合じゃない。 オレ達のことが桜ちゃんにバレていいか悪いか日置に確認してない。 緊張してドキドキすべきだ。 けど、顔が……緩む。 日置がオレの前でヘタレになってしまうのを当たり前みたいに思ってたけど、他の奴の前じゃあんな態度を見せないって言われると、日置にとってオレが本当に特別なんだって桜ちゃんに認定してもらったような気分になる。 やばい。 キュッと口元を引き結ぶ。 ああ、でも目が……ダメだ。 間違いなく甘く緩んでしまってる。 オレに触発されたのか、日置の目もトロンととろけた。 パシャッとシャッターを切ってすぐ、オレに艶めく目線をよこす。 オレもそれに微笑み返そうとした……。 けど、桜ちゃんの指の長い綺麗な手がオレの顔の前にかざされ、日置の視線を遮った。 「ハー、目つきがセクハラ!」 「目つき……」 日置が眉をしかめて瞼をヒクヒクとさせる。 どうにか目つきを変えようとしているんだろうか。 「ハー顔が変。って言うか変態っぽい」 「へ…変態って……。顔は生まれつきだ。お前だって地顔は似たようなモンだろ」 撮影の間二人はくだらないことでずーっと言い合いをしている。 喧嘩しているような、じゃれあってるような。 どちらにしても仲がいいんだろう。 でも、仲がいいなんて言ったら二人同時に『どこが?』って、仲良のいい返事が返ってきそうだ。 「桜ちゃんやっぱブーツは足が痛いから他の靴ないかな。ハイヒール以外で」 しょうがないので今日桜ちゃんが履いていた靴を借りることになった。 「これ、浅履きだからまだマシだけど、ヒールも5センチしかないし、先も丸いし普段すぎない?」 「浅履き最高じゃないか。少しでもラブちゃんの足が出る方がいい」 「でもヒールの方が足が綺麗に見えるのに」 やっぱりサイズは小さいけど、トウは広めだしヒールもないから爪先の負担は小さい。 「こっちにする」 へへっと笑うと二人もつられて表情がふにゃっと緩み、小さな兄妹喧嘩はすぐに収まる。 かすかにブーツの跡がついているからと、撮影再開の前に桜ちゃんが足のマッサージをしてくれた。 クリームを塗ったオレのスネを綺麗な指が滑る。 そう言う意味で意識してないつもりでも、綺麗な女の子にマッサージされればドキドキするのは男の(さが)だろう。 けど、なんでだ。 足のマッサージを見ている日置の方が鼻息が荒い。 オレに電話をした時の甘えた声を桜ちゃんに聞かれるのが恥ずかしいなんて言ってたくせに、こんな煩悩丸出しの顔を晒す方がよっぽど恥ずかしい気がする。 「ハー、目つきがエロい。セクハラ。むっつり。そんなじゃラブちゃんに嫌われちゃうよ」 「た……多分ラブちゃんはもう慣れてる」 気まずそうにに目をそらす日置に笑って頷いた。 「ラブちゃん、うちのハーがキモ男でごめんね」 「キモい日置は面白いから大丈夫。マッサージありがと。撮影再開しようか」 「ラブちゃんいい人!ハー、この写真、変なことに使ったりしないでしょうね」 「変なことってなんだよ……。サクと一緒の写真をソウイウ意味の変なことに使うわけないだろ」 また小さな喧嘩を始めてしまった。 『桜ちゃんと一緒の写真は変なことに使わない』ってことは、オレ一人の写真はソウイウことに使うってことか? なんでそれを自信たっぷりな顔で妹に言えるのか不思議だ。 二人の言い合いにさすがに慣れてきたオレは、気にせず撮影位置に立った。 「あ、サク、靴変えたし最初はラブちゃんだけで撮りたい」 「ん、わかった」 桜ちゃんが気づいてないからいいものの『一緒の写真は変なことに使わない』発言後すぐにオレだけの写真を取りたがるって、日置……結構恥ずかしいぞ。 想像はしてたけど、やっぱり日置がソウイウ意味でオレの写真を使ったりしてるんだな……なんて考えてたら、ついほんのりセクシーなポーズをとってしまっていた。 「はぁぁ……ラブちゃん可愛いっ!」 また日置の独り言か…と思いきや、まさかの桜ちゃんの声だった。 やっぱこの二人、時々すごい似てるよなぁ………。 ◇ 夜遅くに始まってしまった撮影は案外に楽しくて、結局裸足バージョンも撮り、片付け終わったのは夜の闇が薄らぎ始めた頃だった。 今日も仕事と学校がある桜ちゃんは一足先に日置のベッドで寝ている。 「ラブちゃんも少し寝てから帰る?」 「ああ、そうだな」 「じゃ、ちょっと狭いけどベッドに」 「は………?いや、桜ちゃんが寝てるだろ」 「アイツは寝起きいいからすぐスペース開けて……あ、いや、ダメだね。当たり前みたいに馴染んでたからまるで二人が幼馴染だったような感覚になってた」 幼馴染……だとしても、一緒に寝るよう勧めるか? これはオレを女扱いしてるのか、桜ちゃんを男扱いしてるのか。 どちらにしろ桜ちゃんとオレだと大丈夫だって、完全に安心し切ってるんだろう。 でも桜ちゃん美人だし、そばに近寄られれば普通にドキドキするんだけどな。 って、あ、オレが桜ちゃんの眼中にないから絶対安心ってことか。 ……いや、オレだって男だぞ? 「日置の友達って派手なの多いだろ?桜ちゃんに手を出したりする奴がないか心配じゃないの?」 「はっ…ダメダメ。サクゾウは全然モテないから」 「そんなことないだろ……」 「まあ、南城とかも高校の頃サクを口説いてたみたいだけど、サクは全然相手してなかった。他の奴らにもそう。結局彼氏の一人もいたことないよ」 ……日置、それを世間じゃモテるって言うんだぞ。 やっぱりヤキモチ妬きの日置が安心し切ってるのは、理想が高い桜ちゃんとオレがどうこうなんてありえないからか。 オレはローソファーに、そして目の前の床にマットを敷いて日置が寝る。 日置がオレの手をキュッと握って幸せそうな笑顔を浮かべた。 くっ……なに無邪気に笑ってんだよ。 もしかして手を繋いだまま寝る気か?寝室には桜ちゃんがいるのに。 ダメだろそんなの。 けど、日置の目を見てたらなんか……。 「おやすみ」 身を乗り出して、キスしてた。 繋いだ手は……どうせ寝てるうちに離れるだろうし握ったままでも大丈夫かな。 「ふ…ふくっ……おやすみ」 日置の『おやすみ』は変な笑い声付きだ。 その笑いに幸せがいっぱい詰まっている気がする。 はぁ…日置の変な反応に嬉しくなっちゃうんだからオレも困ったもんだよな。 じんわりじんわりと心が温まる。 そしてオレの意識はそのまま優しい闇に包まれていった。

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