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日置くんはイケている26[終話6]日置くんは誕生日を知らない

「ラブちゃん、俺、明日から『好き』と『大好き』を各一回ずつに制限する事を努力目標にするよ」 「は……?何それ」 「いや、そのあんまり言うなって言われたから」 「全く言わなかった日もあるだろ。余計増えるんじゃね?」 「ああ…そっか、いつも家でラブちゃんの写真とおしゃべりしてるから……」 「……」 ラブちゃんの視線が冷たい。 「オレが言ってるのは、言葉の回数だけじゃなくて、日置が熱くなり過ぎて冷めるのが早まるのは寂しいから、気持ちを心の中でじっくり育てて欲しいってこと。前も言っただろ?オレ、これからも日置とずっと一緒にいたいからさ……」 いつも俺の扱いが異様なまでに軽いラブちゃんが、俺の気持ちについてしっかり考えてくれていた事に驚いた。 それに大好きアピールを減らすどころか、ラブちゃんにちょっとでも俺の『好き』が足りないって思われたら『じゃあ、もういいよ!』と、アッサリ捨てられてしまうんじゃないかとさえ思ってたのに。 「ラブちゃん……」 「あ、『あんま好きって言うな』とは言ったけど、お前がオレのこともう好きじゃないって思ったら、オレから先にバイバイするからな。言葉は減らして欲しいけど……気持ちまで減らすのはダメだぞ」 あ、やっぱり足りないって思ったらバイバイされてしまうのか。 だけど言葉で好きって伝えるだけじゃダメってなると……。 「ラブちゃん……今から……」 「ん……?」 「そこの木の陰で……いや、それはダメだ……トイレももちろんダメだし……」 「なんだよ」 「むしろこのまま日が落ちれば、あの健康遊具と看板の間が一番人目につかないかも」 「だから、なんなんだよ」 「いや、どこでしゃぶるのが一番いいかなって……」 「……念のため聞いておく。何をだ?」 「え…それは……その……お……いや…その……」 「きちんと説明できないようなコトをこんな所でさせるわけないだろ。お前、本当サイテーだな。せっかくオレが普段言いづらい事を思い切って言ったのに。無神経。エロ魔神。やっぱお前が好きなのオレの下半身だけなんだろ」 あ、ああ………怒らせてしまった。 「ちが……ラブちゃんが喜んでくれるかなって……」 「喜ぶわけないだろ」 「いつもコレだけは喜んでくれるから」 「……お前、それ本気で言ってる?」 「もちろん!本当に本気、大真面目で言ってるよ。ラブちゃんに喜んでもらうために俺が頑張った事の中で一番反応が良かったのはフェラだ!!!」 あ…ラブちゃんの座る位置がスススと離れていく……。 「いや、冗談じゃなく、本気だよ?本当に…しゃぶれば必ず頭なでて優しく褒めてくれるし……」 「あ…うん……わかった……。ソレばっか喜んでるって思われてるってことは、なんか、オレも悪かったのかも。うん、うん…だから大きな声で変なこと言うのやめろ」 大真面目で言ったのに変な事だなんて……いや、確かに変な事だな。 う……顔が……燃えるように熱くなってきた。 「そんな恥ずかしがるくらないら言うな。バカ」 ラブちゃんがサッと立ち上がって歩き出した。 え……え…置いていかれる? 「今日は撮影終わり?」 振り返り、後ろ向きに歩きながらラブちゃんが聞いてきた。 「あ…そうだね。うん、終わりにしようか」 高い樹木の多い公園の中は暗くなるのが早い。けど園内に街灯がともる時刻はまだのようで、今が一番目が利きにくい時間帯かもしれない。 「じゃ、今日撮った写真、おっきい画面で見たいから帰ろ」 「ああ、わかった」 置いていかれるなんて、何でそんな馬鹿な事を考えたんだろう。 ラブちゃんが先を行くなら追いかければ良いだけだ。 バッグを担いでパッと立ち上がり、急いでラブちゃんに並ぶ。 ……あれ?さっきラブちゃん『帰ろう』って言った? 写真を見るのって俺の部屋だよな。 「ラブちゃん『帰ったら』晩ごはん何食べたい?」 「何かある?」 「んー、これから作らないと何も」 「あ、じゃ、鍋しよう!この冬の初鍋!」 冬と言うには少し早い気がするけど、ラブちゃんには鍋=冬という図式があるようだ。 「なら、スーパーに寄って帰ろうか」 「あ、オレ、鍋の素って使った事ないから買ってみたい!」 「へぇわかった。じゃあ、一緒に選ぼう」 「うん!」 すごく楽しそうだ。ラブちゃんの機嫌が直って良かった。 それに、俺の部屋がラブちゃんにとって『帰る場所』になっているって事も嬉しい。 単なる言葉の問題かもしれないけど、俺の部屋をラブちゃんの大切な場所の一つに加えてもらったように感じられた。 ラブちゃんの明るい栗色の髪が風に乱される。 ちょっと赤くなってる指先でその髪をササッと整えていた。 何でもないしぐさなのに、胸がときめき、赤い指先を手で包んで温めたくなる。 どんな綺麗な人にだってそんな風に思ったことはない。 どうしてこの人は俺にとってこんなに特別なのか。 「やっぱ好きだな……」 俺の言葉にピクンとラブちゃんが反応した。 しまった!また……。 「オレ鍋って言われて、すき焼きだとちょっとピンとこないんだよなぁ。『すき焼き』はあくまですき焼きって料理で鍋じゃないって感じ」 ……セーフ。 「へえ、そうなんだ。じゃあシャブシャブは?」 「……お前がシャブシャブって言うと、なんかエロいこと考えてそうだ」 あれ?こっちがアウト? 「日置『シャブシャブしたい』って言ってみて?」 「シャブシャブ……したい」 「やっぱなんかエロい」 「いや、気のせいだって!」 「日置、オレとシャブシャブしたい?」 「おうっふ!……シャブシャブしたい…ですっっ」 ……ラブちゃんの方が断然エロい……。 「バカ、何想像してんだよ」 「せっかく忘れかけてたのに、ラブちゃんが思い出させたんじゃないか」 「んじゃもう一回忘れろ。それよりさ、オレお前のしたい事知りたい。さっきの足湯みたいにどっか行きたいとか、オレと一緒に何かしたいとかそんなの」 パッと思いつくのはラブちゃんの生足を堪能することばかりだ。そんな不埒な事を考えながらも俺は感動していた。 これまでは俺の気持ちに応えるだけだったラブちゃんが、自分から俺に興味を持ち始めてくれている。 そして自分から俺への気持ちも伝えてくれた……。 「だったらドライブしながら紅葉を見に行こうか。山の方はまだ結構きれいらしいよ。食べ歩きデートもいいね。冬季休みに入ったらスノボ…それから…俺の実家へ遊びに来る?それと……」 「すげぇ色々出てくるな。うん、全部やろう。一緒にな」 「本当に?嬉しいな」 「ああ、色々一緒にいこう。ほら小指出して。約束、好きだろ?」 約束……。 これからの約束。 ラブちゃんの細くて長い小指に俺の小指を絡ませた。 「ラブちゃん。今言ったの全て一緒に行ってくれるの?」 「ん、日置計画するの得意だろ?」 「秋冬だけじゃなく、来年の春夏の予定までたててしまうかも」 「本当に?すげぇ楽しみ」 「来年や再来年、その先の計画でも、一緒に行ってくれる?」 なんでもないフリをして聞きがらも、絡めた指が震えている。 「もちろん。そりゃあんま金かかるようじゃ困るけど、そこはちゃんと考えてくれよ」 「いつかラブちゃん言ってた、オーロラも見に行けるといいね」 「うーん、ちゃんとしたツアーだと結構かかるんだろ?就職してからじゃないと厳しくね?あ、これから頑張って金貯めて卒業旅行で行くってのもいいな!で、社会人になったら温泉旅行とか近場でいろんなとこ行きたい」 「そっか卒業旅行はオーロラで、社会人になったら温泉旅行……。一緒に行こう、ラブちゃん約束だ」 「うん、約束!」 軽い調子だけど、わかってる? この先も俺とずっと一緒にいてくれるって約束したんだよ? けど、わかってなくてもラブちゃんはいつもきちんと約束を守ってくれる。 気にしてないようで、俺の事を気にかけてくれている。 胸がジュン……と熱くなった。 嬉しい。 俺のスケジュールをラブちゃんとの約束で一杯にしたい。 じんわり口角が上がる。 けど、今はニヤけてもいいよな。 「こら、日置。わかってんのか?今オレとずっと付き合うって約束したのと同じなんだからな?飽きたらポイとかせずに、オレに飽きないように努力しろよ」 「え……飽きないけど、うん、頑張る」 「ちぇっ、なんだよその返事、すげぇ適当。けど約束は絶対だからな?」 「あ、ごめん。うん、約束は絶対」 ラブちゃん、適当に返事したんじゃないよ。 驚きと感動で、上手く感情を表現できないだけだ。 口角は上がりっぱなしなのに、まぶたは熱くて、鼻の奥はツンとする。 当然目はウルウルだ。 はぁ……。 ラブちゃんが俺に…ラブちゃんと約束して…だから…ラブちゃんとずっと一緒で……。 ああ、頭が回らない。 だから俺はラブちゃんが……。 こんな可愛らしいラブちゃんが……。 ラブちゃんが大好きなんだ。 すっかり日が落ちた町を、二人寄り添うように俺の部屋へと歩いて帰る。 トンと手の甲同士がぶつかった。 その何気ない接触に俺は胸がキュッとなって、ラブちゃんの小指に再び小指を絡ませる。 ラブちゃんが小指を絡めた手をキュキュキュキュと、小さく四回振った。 ヤ・ク・ソ・ク……。 意味はすぐにわかった。 俺もキュキュキュキュと、四回振り返す。 ヤ・ク・ソ・ク。 ダ・イ・ス・キ。 ラブちゃんはどちらの意味で受け取るだろう。 どちらでもいい。 出来れば両方感じて欲しい。 そうだ、好きだと言葉にするのを制限されてしまったから、これからこれをラブちゃんへのサインにしよう。 ラブちゃん、好きです。 その気持ちを込めて……。 また四回小指を振った。 けど、ラブちゃんからの返しはない。 あれ? また四回小指を振ってみた。 今度はラブちゃんからの返事があった。 指振りだけじゃなく、声付きで。 「モ・ウ・ワ・カ・ッ・タ、シ・ツ・コ・イ」 ……………。 過ぎたるは及ばざるが如し。 やっぱり俺の場合、愛情表現は少な目の方がいいらしい。 回数少なく、中身は濃く……。 あ、ラブちゃんとのエッチと同じだ。 そうか、だからラブちゃんはなかなか最後まで致してくれないのか。 たまにだったら俺がガツガツするのも悪くないって言ってくれたのもそういう事だね。 わかったよラブちゃん。 これからは自分で抜く回数も減らして、ラブちゃんとの時間をより濃いものにするから! 隣を歩く愛らしい横顔を見つめながら、俺は欲にまみれた禁欲を誓った。 大好きな人の温もりがそばにあるっていうのは、なんて奇跡的なんだろう。 俺が信じていなかったもの。 一目惚れ。 初恋の約束。 天使の存在。 その全部をラブちゃんが俺に与え信じさせてくれた。 ずっと大好きだよラブちゃん。 アプリでジジイに加工しても、デブでも、ハゲでもどれもラブちゃんだと思うと愛おしかった。 ……はっっ。 お…俺は…?ハゲはしないだろうけど、ジジィになっても好きでいてもらえるのか? あ…あ…ああ………ただでさえ顔が好みじゃないと言われてるのに、好みじゃないジジィになって好きでいてもらうにはどうすれば……。 いや、未来っていうのは今の積み重ねだ。 ラブちゃんの俺と一緒にいたいという気持ちを、ちょっとづつ積み重ねていくことができれば、今想像している未来ってところにたどり着けるはずだ。 小指で繋がる愛おしい存在。 今日、ラブちゃんと俺との『これから』という新しい扉が開いたんだ……。 そう、扉が……扉……。 「あ、あれ……?鍵…?」 いつもポケットに突っ込んでる家の鍵がない……え…っっえええ……???? わたわたと慌てる俺にラブちゃんが呆れている。 「……カバンに入ってんじゃねーの?」 「あ、そっか、このバッグ普段は持ってないから……ごめんバッグのポケットに入ってるから出してくれない?」 「え…?」 「その……小指、離したくない」 「ふはっ…なんだそれ?」 笑いながらもラブちゃんは鍵を取り出し玄関ドアを開けてくれた。 小指を絡めたままラブちゃんの開けてくれた扉を二人でくぐる。 なんでもないことだけど……俺にとってはどこか儀式のようで……。 じんわり、じんわり……胸が熱くなり、再び目が潤む。 手が震えるのも伝わってしまってるかもしれない。 ラブちゃんが俺を見上げてちょっと微笑んだ。 「何泣いてんだバカ」 「泣いてないです」 閉まった扉に優しく押し付けられる。 「……日置の泣き顔、変な顔」 「ごめん……」 「なに謝ってんだ?……好きだよ、お前の変な顔」 「じゃ……俺、ずっと変顔…してる」 「バカ、たまに見れるからいいんだろ?」 「あ……うんっっ……ん…」 慰めるようにラブちゃんの唇が俺の唇を覆った。 「ふぅん…ラブちゃん……好き…大好き……」 我慢できずに唇の隙間から甘えるように言葉が漏れる。 ラブちゃんはその言葉を咎めることなく、ちょっと嬉しそうに笑ってくれた。 小指を絡めたまま、長い長いキスをする。 チュッと離れては、またふんわりと唇がふれ、優しくて甘く痺れて、ゆっくりと舌になぞられるたび息が上がってクラクラとする……。 ラブちゃんとの未来はこんな風に優しく甘いんだと教えてくれる、約束のキスのようだ。 そう、俺とラブちゃんには約束がある。 この先ずっと、一緒にいろんなとこに出かけるんだ。 約束は絶対………。 絶対……だけど。 鍋の約束……スーパーに寄るの忘れてたな。 ……でも、ラブちゃん。 その約束はもう少しの間忘れていて。 この幸せに満ちたキスに溺れることを許してください。 《日置くんはオタオタしている=完》

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