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御礼SS:日置くんは読書をしている

※作中に出てくる小説の設定は、特定の小説や漫画を想定しているものではありません。 ※キャラの思考は作者の考えと同一ではありません(*´д`*) ―――――――― 最近、勉強、バイト、友人関係と毎日忙しく、非常に充実している。 その中でも特に充実させたいのが恋愛だ。 大人の階段も少しづつ登っている気はするが、次の一段が遠い。というか、しばしば見失っている。 もちろん努力はいつもしている。 ラブちゃんにその気になってもらうために、ネットで色々調べるのは基本だ。 けど、うっかり見落としていたものがあった。 コスプレしてる女の子たちのノリなどを見ていれば、真っ先に気づいて良さそうなのに。 そうBLだ。 なんとなく女の子のものというイメージで、自分と無関係のように思っていたけど、ラブちゃんのようにピュアでちょっとイタズラな天使に胸キュンしてもらうには、参考にすべきはゲイ小説じゃなくBLだ。 ゲイ小説みたいに『伊良部さんのブラックモンブランをオレのスケベな雄穴にぶち込んでガンガン犯して欲しいっす!』なんて言いだしたら……もう誰に向かって言っているのかすらわからなくなる。 ああ…脳裏の伊良部さんがラブちゃんじゃなく、日焼けしてガッチリ脂ぎったケツ顎の男にすり替わっていく。……ううう…コレは無理だ。 というわけで、ネットで電子書籍のBL漫画を試し読みしてみることにした。 どれがいいんだ。 なんかエロそうなのも多いけど。 えーっと参考にするんだから『大学生』で絞り込んで……。 ああ、結構さわやかなのもあるな。 いきなりエロいのはちょっと抵抗があるし、これ行ってみよう。 試し読みをクリック。 表紙…扉絵…目次と来て……ん?なんだこのタイトル文字だけのページは。 ああ、本文が始まった。 主人公が誰かの事をチラ見して…ん?これは多分カップルになる相手じゃないよな。 いや、表紙と絵の感じが違うだけか? ん…? アパートのドアをノックして……え? 終わり!? 嘘だろ!試し読み十ページ中、本文が三ページじゃ、どんなキャラかすらわからない。 てことは……。 ああ!警戒して手を出さなかったエロそうな漫画も閲覧できる本文は三〜五ページ程度だ! 冒頭に一コマ、二コマエロそうなシーンが挿入されてることもあるけど、どういう経緯でそんなことになったのかさっぱりわからない。 参考になりそうなら購入も検討するつもりだったのに、興味を引かれる手前で終わってしまう。 これは……勇気を出して古本屋でBL漫画を立ち読み? 無理だ。勇者の称号を貰えるとしても無理だ。 小説……? そうだ小説なら試し読みが三ページしかなくても漫画より中身が濃いはずだ。 ……えーっと……。 はぁ。 まあ、そうだよな。 冒頭は情景描写や環境説明ばっかりで、漫画よりも中身が薄い。 確かに冒頭でいきなり濃い部分を見せられても読み手は状況がわからず全くついていけないだろうし。 こうなったら……借りる? いや、貸してくれそうな子はいるけど言い出す勇気がない。 適当に買ってみる? ハズレた時のダメージがでかいよな。 ……そうだ。 川内が下手でぬるい萌え系漫画を描いていた。あんな風に素人が描いたものなら……。 あ、ある!!! ネットにいっぱいあるじゃないか! ……えーっと…んん…。二次創作ばかりでオリジナルを上手く見つけられない。 しょうがない。 人気の少年漫画の二次創作のR18BLで……。 お…おおう。 身体が柔いな…いや、そうじゃない。けどそうやって注意をそらさないと……。 エロシーンのインパクトが強すぎて、頭がクラクラする。 しかも無理矢理系とかが多いな。 それにあんな勢いよくシパンシパン!アンアン!……ああ、いや、漫画だからな、うん、漫画だ。 動揺を抑えるために、どうでもいいことばかりに目をやってしまい、話が全く頭に入って来ない。 チラ見が精一杯でまともに読めないんじゃ、肝心のラブちゃんを萌えさせ、その気にさせるセリフも見つけられるはずがない。 漫画はダメだ。 ちょっと俺には刺激が強すぎる。 けどあんな風にラブちゃんが腰をシパン!シパン!…ああああ、いや、うう、何想像してるんだ。 まあ、そんなに張り切ってくれたら嬉しいけど、恥ずかしいし、色々無理だ。 この話みたいに俺が『あぁん!男の子なのに孕んじゃうよぅぅ!』なんて言うのも地獄すぎる。 そうだ漫画があるんだから小説もあるかもしれないな。 あ、ここのサイトで探せるか? えーっとカテゴリーはBL小説で、検索ワードは『大学生』『天使』。 えーっと。 んん? なんでだ? おかしい。 天使が受けばかりだ。受けって確か……こっちだよな? 中性的で天使のような?まるで少女と見紛うような? あれ?BLだよな、これ? まあ細かい事はいい。 とりあえず読むか。 えーっと。 書いた人には申し訳ないが濡れ場まで飛ばそう。 そうそう、二人デキ上がってからのエッチシーン、俺が求めていたのはこれだよ。 これを参考にラブちゃんをその気にさせるシュチュエーションやセリフを勉強しよう。 キャラ名がタイへーとケイ? ここはラブちゃんと俺に置き換えて読もう。 近所に住んでる幼馴染のラブちゃんが、夜、恋人になった俺の部屋にこっそり忍び込んでくるという筋書きなのか。 ……いや、ラブちゃんは恋人だろうと断りもなく家宅進入なんかするタイプではない。 そこら辺がきちんとしてるというのもラブちゃんの事を好きな理由の一つなのに。 ……はっ、そうじゃない。 ええっと、ここは俺の部屋で合鍵を渡して『いつ入って来ても良いよ』と伝えているという事にしよう。 うん、そう考えれば……あああ、萌える! 眠っている俺を起こさないよう、イタズラな笑顔でそーっと部屋に入ってくるラブちゃん。それだけで激萌えだ。 ベッドの俺にそっと寄り添って、寝顔を見つめる。 鼻をつまんだりちょっとイタズラをしても俺は起きない。 イタズラはだんだんエスカレートして、ラブちゃんの手は俺の胸をまさぐり、下着の中で楽しそうにうごめく。 びっくりして起きる俺。けどラブちゃんが後ろから俺を拘束し声を出さないよう口を押さえる。 部屋は暗いからラブちゃんは侵入してきた不審者のフリをして俺を怯えさせ、すぐに正体をバラして抱きしめキスをして慰めてくれる。 ……ん? 寝起きだとはいえ、ラブちゃんを他の人と間違うなんてありえないよな。 逆に他の友達が泊まってる時に、ラブちゃんの夢を見て寝ぼけてうっかり間違え、恥をかく方がありうる。 いや、そんなことはどうでもいい。 小説が他人のフリして怯えさせるという展開なんだから。 寝ている俺にエッチなイタズラするラブちゃん……これはもしかしたらあるかもしれない。 目が覚めたらラブちゃんの手が俺の体に……? あああ…萌える。 イタズラなら『寝てる俺の口にタバスコを流し込む』なんてこともやりそうだけど。 あああ……口が燃える。 いや、そんなことはどうでもいい。 小説はイタズラからのエロエロ展開だ。 侵入したのはラブちゃんだったと正体をバラした後も『不審者に脅されて……』という設定を守ったままのごっこプレイ。 恥ずかしいのに、ラブちゃんは無理矢理という設定をやめてくれない。 『気持ちよくなれば、誰にでも感じるいやらしい体だなんだな』となじられて、『違うラブちゃんにさわられるから気持ちいいんだ』と言っても聞き入れてもらえなくて俺が泣き出す……。 ん……? なんだか……違和感がすごいな。 いや、このあたりのセリフは萌え度が高いはずだ。 しっかり読み込もう。 「ぁあん!違うよっ!ボクがこんなにエッチになっちゃうのはラブちゃんだからだよ!」 ……うっっ。俺の声でこのセリフというのは……かなり違和感が。 いや、落ち着け。まだBLのセリフに慣れてないからだ。 「ぁああん!もうボク……!んにゃあん!おねがい、やめて!も、もう出ちゃうぅ……」 えーっとイキそうになったら……か、可愛く自己申告ってことか? 「やん!ちくびでイっちゃってごめんな……ぁいやん!あ……あやまるからもう…もうぅ!」 えーっと、これは乳首でイケた方がいいのか、それともダメなのかどっちだ? 「もうラブちゃんのバカァ!ボクばっかり気持ちよくさせられて、こんなのやだ……だって……まだラブちゃんの……入れてもらってないんだもの」 お…おおおおお!!! これはきっとキュン度が高いぞ。 ……いや、待て。 はっっ! 入れてもらってないってなんだ! あ…そのあとの本番シーンがある。けど随分さらっと終わってしまった。 気持ちよかったって……まあそうだろうけど……。 そのあともう一度布団の中でいちゃつく宣言して終わり……?? うぬぬぬ…これではどうやって本番に持って行けばいいのか、肝心のところが……。 ……いや、待て。 はっっ! エッチなシーンはラブちゃんのイタズラから始まっていて、俺はただ眠っているだけだ。 全然誘ってないし、その気にもさせてない!!!! ………。 …………。 いや、どこか必ず参考になるところがあるはずだ。 とりあえず全体的にセリフが可愛らしかったよな。 「んぁん…ラブちゃん…こんなのやだよう。はずかしい、あ…ぁあ…!お尻クチュクチュしないで……」 ………おおおおお…。 この言葉遣い。ギリギリ南城ならいけるか? 俺は……無理だ。 いや、諦めたらそこで終わりだ。 俺はラブちゃんの萌えとヤる気を諦めるわけにはいかない。 「やらぁ!ヘンになっちゃうぅぅ!」 ………いや、俺が言うと違う意味で変だ。 ダメだ……。 全く取り入れられそうな気がしない。 ああ……なぜだろう。 BL小説を読んだだけなのに、敗北感でいっぱいだ。 俺は……。 俺は………。 ちょっとだけ可愛く喋る努力をしてみようか。 ラブちゃんの前だと今でも通常時の1.5倍は甘えた喋りになってしまっているんだし、さらに可愛く……可愛く。 「ぁあん…ボクの……」 リロリン! あ、ラブちゃんからスマホにメッセージが。バイト終わったのかな? 丁度良い! 可愛い喋りの練習としてラブちゃんに電話してみよう。 呼び出し音が……1…2…あ、すぐ出てくれた。 『おー、日置どうした?』 「あはっ。ラブちゃんメッセージありがとぉっっ♡すごく嬉しかったから電話しちゃった」 『…………』 ブツッッ……。 ……切られた。 お………おおおおおお。 挑戦した……けれどやはり俺は何かに負けた。 けど……あっっっ!!! すぐにラブちゃんからコールバックが!!! そうだ、一度の失敗で諦めてはダメだ。 ――簡単に諦める者に勝利は無い。勝者は決して諦めない。 by ナポレオン・ヒル ボナパルトじゃない人がこんなことを言っていた。 「はぁい、もしもぉし、ラブちゃぁん♡」 『日置、正直に答えろ』 あれ?ラブちゃんの声がなぜか重い。 「ウン、なぁにラブちゃん?」 『お前、なんか変なクスリやってるだろ?お前はそんな奴じゃないと思ってたのに。今すぐやめろ。誰かに誘われたんなら、相手もやめさせろ。……やめるのが辛いようならオレも助けになるから……』 「え……いや、いや、やってません!!違います。ちょっと可愛く喋ってみただけです!」 『嘘つけ。気持ち悪いだけで全然可愛くないし。お前、今、家にいるの?』 「はい!家です。でもクスリはほんとやってないんで……」 『じゃ、速攻行く。待ってろ』 ブツッと通話が切れたけど、話している最中すでにラブちゃんは走り出してるようだった。 う……うわぁぁ…どうしよう。 ちょっと可愛い喋りにチャレンジしただけなのに、ラブちゃんにおかしな心配をかけてしまった……。 いや、ちょっと待てよ? 『うちに来ない?』と声をかけずにラブちゃんを家に誘うことに成功したんだぞ? これは何気にすごいことじゃないか? ――人生における失敗者の多くは、諦めた時にどれだけ成功に近づいていたかに気づかなかった人たちである。 byトーマス・エジソン しつこく他人の成功を邪魔したアメリカの偉人もそう言っている。 BL小説を読んだ結果、俺は思ったのとは少々違う方向でラブちゃんの胸をドキドキさせてしまった。 さらに走ってくるから、うちに着いたラブちゃんのドキドキは最高潮。 ドキドキを恋のドキドキと勘違いする……というド定番の吊り橋効果が期待できる。 (ちなみに吊り橋効果は男性にしか効果が期待できない) ラブちゃんは優しいから床に頭擦りつけて謝れば、おかしな心配をかけたことくらいあっさり許してくれるだろう。 そして膝をついて慈悲を乞えば、走った後で興奮状態が続くラブちゃんはそのままエッチな天使に早変わり。 ……は…はぁぁぁ素晴らしい。 さあ、ラブちゃんが到着するまでにベッドにイチャエロセットを用意しておこう!!! 《終》

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