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貳 1

風薫る5月も後半になると暑い。 梅雨目前の不安定な気候は、気温差が激しくて無駄に体力を消耗していく。 透の通う城南(じょうなん)高校は公立だが、かなりの進学率を誇る学校だった。 放課後部活に励む生徒は過半数にも満たない。 運動部に所属する生徒はさらに少なかった。 6限終了後の教室の中は、完全衣替えまで数日あるが、ブレザーを脱いだ白い開襟シャツが大半を占めている状況だった。 「高山」 と、透は成川将吾(なるかわしょうご)に、名前を呼ばれ手招きされた。 下校しようとしていた高山透(たかやまとおる)は、成川のもとに歩みよっていった。 透と成川は、出身中学が一緒で中学の時から友人で、高校生活最後にして同じクラスになった。 平均身長を上回る透より背が高くて、横幅はあるが、マッチョ体型ではない。 少し前に流行した細マッチョよりは筋肉質で、理想的な体躯に短く刈った黒髪が、彼の硬派な印象をよりいっそう強くしていた。 一重の切れ長の黒い双眸が、整った顔をシャープに見せていた。 剣道部の主将でインターハイ出場経験者で、この学校では勉学と部活を両立している少数派の一人だ。 優れた容姿に他者を圧倒する絶対的な存在感。 発せられるオーラが、周囲とは明らか違い、見るからにαであった。 透が成川のそばに行くと、彼に顎をしゃくられた。 成川の席は窓際であった。 そこからは見下ろせば、校門のところにいる生徒たちが見渡せた。 背の高い金髪の生徒に群がるように、人垣ができていた。 「あいつらも飽きねぇな」 と、透は外を見下ろしながら言った。 「あっちゃん機嫌悪そう」 と、二人の背後から声がかけられた。 茶色の髪に大きな茶色の瞳の深水千明(ふかみちあき)だった。 透と成川の二人が並び立っていると、他の生徒達は声をかけづらい雰囲気に躊躇してしまうのが現状だ。 そんなことは、微塵も歯牙にもかけないのが、千明だった。 透の幼馴染みで、小中高と同じ学校に通っている。 1年生のときに同じクラスになったが、2年、3年とは別のクラスだ。 透より少し低い身長で、成川とは真逆のような整った甘めのお坊ちゃま顔だ。 泥臭さとは無縁の涼しそうな顔なのに、汗と泥にまみれた野球部所属。 サードで3番打者という昔のマンガのキャラを地でいく。 部活をこなし、器用に世間を渡り歩いているのが千明だった。 「あいつはいつも不機嫌だよ」 と、透は言った。 人垣の中心にいる金髪の生徒は、透の弟で『あっちゃん』だ。 「そうかなぁ。僕には愛想いいけどな」 と、千明がにこやかに笑った。 「弟、愛想ないぞ」 とは成川だ。 「あぁだって成川、透とべったりだから嫌われてるの」 と、千明だ。 「強度のブラコンが」 と成川が吐き捨てた。 「そうそう、ちっちゃい頃は、とおるちゃん、とおるちゃん、てまとわりついてたもんな」 と、弟の消去したい過去を暴露する千明は、短命な気がする透だった。

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