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貳 2
「迎えの車、今日は違うのな」
と、成川が言った。
正門に横づけられた車は、暁を迎えにくるいつもの黒の大型ワゴン車ではなかった。
「白のベンツってあんま見ないよね。夏は車内が黒より暑くならないからかなぁ?」
と、千明だ。
なにやら違うところに論点がいっていた。
窓から顔を出したのは黒い服を着てサングラスをかけた女性だった。
暁が助手席に乗り込むと、車は静かに走りだし見えなくなった。
「事務所の人?」
と、千秋がきいた。
「たぶん」
と、透は答えた。
暁は生後まもなくから、モデルとして働いている。
暁の仕事関係には透は興味がないので、事務所の社長とマネージャーと、あと数人しかしらなった。
(マネージャーは今は男性だから、違うし。あんな派手な美女が事務所のスタッフなのか? 芸能プロダクションだからありか)
「女優の花蓮 だよ」
と、成川だ。
(テレビなんか見ません。
てな顔してるのに、芸能ネタに詳しいのな、成川くん。
ほんと、そっちのほうが驚くよ)
「じゃあさぁ、パパさんの彼女じゃん」
と、千秋だ。
「本人ならね」
と、透だ。
(父親の彼女の一人といったほうがいいのかな?
女関係派手だからね、あの人)
透の父親は俳優で、10年以上も前に両親が離婚した。
透はテレビや雑誌の中でしか父親をしらなかった。
そして母親の方は小説家だった。
「いいよねぇ、仲良くお迎え。はじかれて寂しいでしょう?」
と、千明が意地悪く笑うと、
透の背中に抱きついてきた。
「……親子どんぶり」
と、成川がぼそりと言った。
「成川、腹へってんの? パン買ってこようか?」
成川は透の腕を引っ張って、おんぶおばけの千明から引き離した。
「ガキ」
成川は吐き捨てて、鞄を抱えた。
「じゃあな」
と成川は言い捨てて、教室をでていった。
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