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貳 3

「さっきの成川の台詞は、パパさんとあっちゃんで、あのお姉さんを食べちゃったってことだよ」 と、千明が成川のセリフを補足してきた。 「……いくら節操なしでも、親のもんには手ぇださないって」 「あっちゃんてさぁ、興味あるのもにはとことん執着しそうじゃん」 「あいつはけっこう飽きっぽいよ」 「そう? すんごい昔のもんだって、こだわりのあるものだったら、ずっと、ずっと、とっときそうなのに?」 と、千明が暁のことを力説してきた。 「ファンにもらったもんとかも、事務所で処分してるし、大事にしてるもんとかないぞ」 「大事に大事にして、大事にしすぎて最後には壊しちゃうタイプだよ?」 「誰が?」 「暁」 (千明が暁って呼ぶのなんて、ホント久しぶりに聞いたなぁ。 本人が聞いたら喜ぶかもしれない。 『あっちゃん』て呼ばれるのを嫌ってはないが、 いつまでもガキ扱いをされてるみたいだ、ってしぶってたから) 「僕にみとれてんの?」 と、千明が透の顔をじっとみつめた。 「いや純粋に驚いただけ」 「驚く?」 「暁って呼ぶの、久々に聞いたような気がしたから」 「わざとだもん」 「はい?」 「いまじゃあ、暁のことあっちゃんて呼ぶのって、僕とママさんくらいだろ? だからね、わざとだよ」 と、千秋はにっこり笑った。   (卒倒しそうな笑顔だって、女子達が言っていた顔だけど。 底意地の悪さが滲みでるようにしか見えないよ。 小学生になる頃からの幼馴染みは、確実に未知の生物へと進化していっている) 「僕も部活いってくるね~」 と、千明が手を振ってから背をむけた。 とっさに、千明の腕を透がつかんだ。 「なに?」 と、千明が首をかしげた。 「部活、いかない方がいい」 「大丈夫。まだ時期じゃないよ」 と、透の手をそっと引き剥がした。 「でも、近いだろう? 少し匂ってる」 「僕が薬の効きがよいの、しってるでしょうが」 「駄目だ。野球部にはαがいるのに、いかせられない」 「……透のそれ、心配性なの? それともα特有の独占欲なの?」 「どっちもだ」 「αらしくないのに、へんな所だけαっぽいよね」 と、千明はくすくす笑いながら、 「僕は尻軽じゃないから、大丈夫だってば。将来有望なαに番にしてもらえるかもしれないし」 と、千明が明るく言ったが言葉尻は小さくなってしまった。 透が怖い顔で見てくるからだった。 「今日だけ。明日はいかないし」 と、千明が顔の前で両手を合わせて、透からの許可を得ようもした。 「……だって発情期がきたら、学校これないし」 「わかった。待ってるから練習終わったら連絡して」 「いいよ。待たなくても」 「絶対に連絡しろ」 透が千明の意思を尊重するのはいつものことだった。 だが、妥協した透はそれ以上はきいてくれない。 他のαのように自己中心的な行動はないが、やっぱりαであった。 「了解」 と、笑顔で答えて教室を出ていった。 男女の性別以外にαβΩという性別があり、全人口の2割がα、1割がΩであり、残りがβという世界で成り立っていた。 αは特権階級の人が多く、αはαの子供が生まれる確率も高いので、多くは国立や私立の学校に通う。 公立学校に通うαは少ないが存在していた。 α以上に数が少なく珍しいΩは、国の管理下の特別な施設で育成される純粋培養されたΩや、後に保護され管理下にいるΩもいる。 しかし、大半のΩは抑制剤を飲みながら、普通に生活していた。 数の少ない稀少な存在であるΩの一人が千明であり、子供の頃から幼馴染みとしてそばにいたのが透だった。

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