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陸 2

「ヤってるときは凶暴になるのか。それはそれはかわいいな」 と、成川は見惚(みほ)れるほどの(あで)やかな笑みをこぼした。 「高山Ωのフェロモンにあてられて凶暴化するのなら、わかるんだがな」 「発情期(ヒート)中は理性なんか飛んじゃうからね。……内緒だぞ」 と、透は成川の唇に人差し指をあてた。 その手を大きな手でにぎってきた。 「(にお)うぞ」 と、成川が小声で言った。 「除臭ミストの時間がたらなかったのかな?」 人口庁が用意したΩが発情期を過ごす部屋のパウダールームには、フェロモンを消すミストが設置されている。 Ωの発情期の相手を終えたαが、利用するように義務付けられていた。 「保健室で消臭サプリもらってくるわ」 と、透が立ちあがった。 「成川、手」 成川が、一度、ぎゅっと透の手を握ってから手を放した。 教室を出た透の横に、成川が並び立って歩いて行く。 「除臭ミストは、べったりとついた発情期のΩの匂いを消すためにあるんじゃない。ヒートに付き合って消耗したαを他の人間から守るためにあるんだよ。将来性のある優秀で貴重なαをαやβやΩからのレイプから守るためだ。政府は、αには心身ともに健康でいてもらなわくてはならないからな」 と、成川が言った。 「……そんなに弱ってないよ」 「他のαの匂いを感じないくらいには、脆弱だよ」 「大げさ」 と、透が笑いとばした。 「それとも、慣れ親しんだ匂いだから、違和感がないのか? Ωの発情期(ヒート)の匂いじゃない。上級αの匂い付けだ」 「え?」 成川が透の腕をつかんで、立ち止まった。 透の顔を見据えて、 「がベッタリ付いている」 と、言い放った。 「……そりゃあ一緒に住んでるからな」 「臭い。悪臭だな」 「ひどい言いようだ」 と、透は笑った。 「サプリ飲んだら、ちょっとはマシになるよ。だから放して、成川」 「所有者臭が強くて、気分が悪くなる」 と、成川が嫌そうに眉間に皺をよせた。 (そんなもん、付けられてるのかよ。 暁のバカが。 ……もっとバカなのは、それに気づけなかった自分だけどな。 暁のやつ、マジで抑制剤飲んでなくて、すぐに千明にあてられてαの発情期(ラット)になっちまうし。 結局、オレの抑制剤も捨てるから、オレもαの発情期(ラット)になっちまったから、まともな人間がいなくて、ヤバいことになってた……。 バース課の職員にセックスの内容がただ漏れだから、帰る時の気まずさはいつも以上だったよなぁ。 それに、成川が臭いに敏感になって怒る意味がわからないし。 暁のことは好きじゃないのはしってるけど、オレに、攻撃的なのはなんでなんだ?) 「だったら、放せよ」 透の言葉に反して、成川の手が力強く腕をつかんできた。 「サプリではαの匂い付けは消えない。もっと手っ取り早く消す方法があるよな」 「なに、言って……」  「帰るぞ」 と、成川は言うと、透を引きずるように歩き出した。

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