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「じゃ、願いを言う前に、お前が悪魔だって証明をしてもらおうか」 「あ、はい。これ学生証です」 結構厚手でしっかりしたカードだ。けど見た事ない字だから学生証かはわからない。 しかも上半身のホログラム写真は、目の前の可愛い顔した少年じゃなく、さっきのイカツイ兄ちゃんだ。 「うん、なんかすごいカードだけど全然証明になんないし、お前顔写真違うぞ?」 「はっ……これは、召喚の時に『魔女っ子っぽい格好』でと言われたけれど、そのままで魔女っ子はキツイので……その」 「んじゃ、証明するために元に戻ってみようか?目の前で変身したら信じてやるよ」 「あ、本当ですか?じゃ……」 サモナがオレのベッドから毛布を取ろうとする。 「何やってんの?それかぶったら手品できちゃうだろ?」 「か、身体だけでも隠したらダメ?」 「可愛く言ってもダメ。ほら、待たせるな。3、2、1、変身!」 急にカウントダウンされ、わたわたと慌てたサモナは、一拍置いて音もなくするりとデカいアニキに変身した。 オレより頭一つ分は大きいか。 腕も足もがっちり筋肉がついていて、ビスチェの下の腹筋もバキバキだ。 切れ長の目は少しつり上がって、厚くしっかりした唇は硬そうに見える。 眉間に刺青のような模様が入っていて、髪は子供の時と同じオレンジと黒のツートーンだけど、おかっぱ風ではなくちょっとワイルドなツンツンショートヘアだ。 人間に置き換えれば二十歳そこそこなんだろう。学生と言うだけあって顔には青臭さも見え隠れする。 そして、筋肉質でデカいそいつが、恥ずかしそうにチュールスカートを押さえモジモジしている。 なかなかに滑稽だ。 「もうよろしいですか?」 声も男らしく低い。 「シッポ本物?」 「ぁあああっっ!つかまないで。シッポはさっきもありましたよ」 「そうだっけ?翼はないの?」 「はぁんっっ…はぁ…翼はっ出すと飛んじゃうので」 シッポで変な声を出してたサモナは、少し膨らんだ肩甲骨をなぞるとさらにおかしな声を上げた。 中がムニュムニュしているのでここから翼が出るんだろう。 「ふぅん。じゃ、お前が悪魔だって信じてやるけど、どういった経緯でここに来たんだ?あ、悪魔召喚カードで呼ばれたとか言うなよ。つまりなんの目的があって駄菓子屋の悪魔召喚カードなんかに紛れ込んだのかってことだ」 「あ、それは、新企画の商品のテスト販売のバイトです。あの、子供の姿に戻っていいですか?」 「ダメだよ。真面目な話してんだよ。いくら学生バイトでもそのくらいわかるだろ?」 「う…はい。すみません」 オレのキツイ口調にサモナがイカつい顔でションボリしている。 この単純な反応を見る限り、学生バイトと言うのも本当かもしれない。 「で、お前の雇い主はなんで悪魔召喚カードを…?」 「はい。最近人間の若い子たちの間で悪魔召喚とかがけっこう流行ってるんですけど、なにぶん情報が多すぎるせいで逆に間違った魔方陣が知れ渡ってしまってって、全然召喚されないんですよ」 「は?悪魔召喚ごっこなんか流行ってるのか?」 「はい。で、極たまに本当に悪魔を召喚しちゃう子供もいるんですよね。そんな子は願いも最初はデカいこと言うんですけど、結局微笑ましいとこに落ち着くらしいんです。イマドキの悪魔も国家転覆みたいな面倒な願いは嫌だけど、気分転換にちょっと人間界に行って、いたずらして帰ってくるくらいなら楽しいよね〜みたいなのが増えてきててですね。そんな悪魔の名前を魔法陣に書いた悪魔召喚カードを人間の子供に販売しよう……という商品企画のテスト販売だったんです」 「子供相手に悪魔召喚カード売ったくらいじゃ商売にならないだろ」 「それは悪魔の方が人間界に行くツアー代金を払う仕組みになってますので」 「ふーん。じゃあ、子供がちょっと怒られたくらいで『両親を殺して』とか願った場合、それも叶えるのか?」 「それも可能ですが、悪魔召喚カードは魔力の出力が制限されますので、殺人には百年かかります。それ以前にそんな面倒な願い事をきかずに済むよう、子供を誘導して願いを変えさせますね。悪魔は誘導が得意ですから」 「なるほど。で、お前はなんでそんなことをペラペラ教えてくれるんだ?悪魔は誘導が得意なんじゃないのか?」 「う…それは」 誘導が得意だなんて言っておきながら、こんなペラペラ喋る時点で何か裏があるんじゃないかと疑ってしまうのはしょうがないだろう。 「なんでだ、サモナ」 「ああ…名前呼ぶのズルいっ。悪魔は召喚の時の言葉に縛られます。ですからカードには『いでよ悪魔!』と言って召喚しろと書いてあったのに、あなたが色々言うからっっっ」 「『名前呼ぶのズルい』っていうのは、どういう意味だ?」 「ああっクソっ俺の馬鹿っ!名前はさらに上級の鎖です。生命の危機にさらされるくらいの状況でなければマスターの命令に逆らえません」 「その割にサラッと名前を教えてくれたな」 「だって『我が僕しもべ。我に永遠の忠誠を捧げよ!』とか詠唱して召喚されたら、名前聞かれれば言いたくなくても言うしかないんやもん!やけん、鎖やっち、気づかれんようサラッと言ったにから!」 ギッと鋭い目で睨んでいるけど、ふてくされた口調は子供っぽくて迫力がない。 「つまりお前は死ぬほど大変なこと以外なら何でも言うことをきくんだな?」 「まあ、そうなりますね。けれど魔力の出力は小さいですし、願い事は一度きり。『マスターが命じる。◯◯せよ』と願いを言ってください」 「お前さっき命じてないのにビール買って来たよな?」 「………」 さっとサモナが目をそらした。 「はぁん……『我がしもべ。我に永遠の忠誠を捧げよ』ってヤツのせいか?正規の『願い事』として言ったこと以外でも、しもべとして尽くしてくれるってこと?」 「チッ………」 「返事は?」 「イエス、マスター」 ふてくされた顔をしながらも従う意思を示した。 「サモナ、お前はいつまでオレのしもべでいる?いや、どうなったときにオレから解放される?包み隠さず条件を全て言え」 「1)願いを叶えた時、2)マスターの死亡時、3)他の悪魔及び人間界以外の者を召喚したとき、4)契約内容に重大な齟齬が生じたとき となります」 「4は例えばどういう事を指すんだ?」 「子供がその場の感情で『両親を殺して』と言ってしまったけど、やっぱりやめてと希望を取り消す…などですね」 「悪魔なのに『願ったのは貴様だ!いまさら嫌と言っても殺してやる。フハハ』とはならないんだ?」 「悪魔召喚カードは若い悪魔向けの暇つぶしツアーですから、ちょっと人間界で楽しんで帰りたいのに百年かかる殺人はちょっと長すぎですね」 「なるほど」 悪魔にとっての百年は暇つぶしとして長すぎる程度なのか。 「ところでさっきからお前、モゾモゾ落ち着かないな。どうした?」 「あの、そろそろ子供の姿に戻っていいですか?」 「……ん。まあ、いいだろう」 ゴツい兄ちゃんがミニスカートで恥ずかしがるという滑稽な姿は充分に堪能した。 あまりデカイ男がいると部屋が狭苦しいしな。 子供の姿に戻ってホッと息をついたけど、サモナのモゾモゾは止まらない。 頬が桃色に染まり、目は熱っぽく潤んでいるのは恥ずかしいからかと思ってたのに、さらに辛そうな表情になってきた。 さっきからしきりに自分の細い太ももを擦り合わせて……。 「もしかして、トイレか?」 「え、いや悪魔なんで固形物は出ません」 「じゃ、小便はするって事だろ」 「まあ、しますけど、人の排泄物とは別物です。体内で全てろ過されるので飲めるくらい綺麗です」 「へぇ。じゃ、飲んで見せてよ」 「え………」 パッチリとした少年の目がウルウルと潤み小さく揺れた。 「その、確かに飲めるんですけど、人前で飲むものではなく、愛の営みと申しましょうかそういった一連の行為の中で愛情の交換という形で……その、お小水というよりは精液に近く、まあ、精子は入っていないのですが……その……」 「ふぅん。じゃあ、そのうち飲んでるとこ見せて」 「ええっっ……そのうちじゃなく、しなくていいって言ってくださいよぉ!」 「だって命令を打ち消したら、お前消えちゃうんだろ?」 「これは正式な願いじゃないから大丈夫ですっっ!」 「でも自分の飲んだら死ぬとかじゃないんだろ?」 「し、死なないですし、若い子は一人でだったらそういう行為もしますが、人に見せるような事じゃないんですっっ!」 「あー、オナニーみたいなもんか?お前も飲んだことある?」 「そうですよっっオナニーですよっっっ!しますっっ。若いんだし、しょうがないでしょっっ!!!」 「何キレてんだよ。でも自分のどうやって飲むの?届かねーだろ」 「それは……。通常はまあ、人間と同じ形の性器から出るのですが、もう一箇所、男女の悪魔ともし、し、シッポからも出るのです」 「ああ、だからさっきシッポ触ったらあんな変な声出してたのか」 「ンァぁ…またっっ!いきなりそんなとこ触らないでください!」 「あれ、お前シッポの先濡れてね?」 スペードのマークのようになっている黒い尻尾の先っぽから雫が溢れて垂れていた。 それをすくって塗り広げてみる。 「ぁあん…ヤダって!いきなりそんな先っぽクリクリしたらダメです!ああっ無理っ!マスター、もうやめろやっ!」 サモナはオレの手を振り切って、翼を広げてバタバタとキッチンに飛んで逃げてしまった。

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