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第2話 営業・網野 育久
「なんか睫毛、長くない?」
コピー機が数台並ぶ後ろには、日除けの衝立があり、その向こうから声が聞こえてきた。
窓から差し込む強い日の光に照らされた2人のシルエットが透けて見えた。
声の主は、営業部の網野 育久 だ。
俺の4つ下、24歳。
入社2年目にして、いくつもの新規顧客を開拓した成績優秀な男。
人当たりがよく、顧客の懐に入るのが上手い上に、話し上手の聞き上手。
営業マンの鑑と言っても過言じゃない。
俺も、入社1年目は、営業部だった。
でも、慣れるまで、人見知りを発揮してしまうコミュニケーション下手な俺。
営業には向かないと判断された俺は、早々に販促マーケへと異動となった。
同じ部署で働いたコトはないが、新人教育の一環で、先輩として話をする機会があり、接点はあった。
朝一番に出勤する俺に、網野も出勤が早く、フロアに2人きりということも多い。
小さな会社は、開発部以外は、ワンフロアに集結している。
営業部と販促マーケ部も、背中合わせのお隣さんだ。
同じ会社で働いている以上、朝、顔を会わせれば挨拶くらいはするし、他の社員が出勤してくるまでの間に、仕事の準備をしながら、たわい無い会話もする。
「わかる? 新作、新作。鞍崎さんに試供品の余り、もらったの。盛れて、伸びて、最高だよ、これ」
きゃっきゃと網野と話しているのは、彼の同期の経理課の女の子だ。
先日、マスカラの試供品が机の中で遊んでいたのを、清算で俺のところに来た彼女にあげた。
すっと伸びた網野の指先が、彼女の顎を捉えた。
「ちょっと見せてねー」
軽い感じで声を放った網野は、彼女の顎をくいっと持ち上げる。
あらゆる角度から、彼女の顔を覗き込む。
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