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第10話 初めまして

 カウンターに座り、相手を物色する。 「新作の試供品。今回はチーク」  左側、空席を2つ挟んだ先で、鞍崎さんと店の従業員であるユリさんが話していた。 「いつも、ありがとう」  少しだけ低い声だが、綺麗なメイクで、一見して男だとは気づけないクオリティの女装をしているユリさんが、嬉しそうに微笑んでいた。  でも、俺の瞳に映ったのは、無表情に近い顔で、ウーロンハイに口をつける鞍崎さんだった。  短めのツーブロックの黒髪に、細身のグレー地にうっすらと白い縦縞の入ったスーツ。  切れ長の一重に、綺麗な形の唇。  銀縁のメガネは、知的な雰囲気を醸していた。  この人は、どんな風に乱れるのだろう。  この人は、どんな声で啼くのだろう。  そう考えただけで、腰が痺れた。  お堅い雰囲気の男を、淫らに燻らせたかった。 「ちゃんと使い心地、教えてよ? あと、気に入ったら自分で買って下さいね。駅前のドラッグストアにも卸してるはずだから」  じとっとした瞳を、ユリさんに向ける鞍崎さん。 「わかってる。この前のコンシーラーだってちゃんと買ったわよ。あれ、綺麗に髭の剃り跡とか隠してくれるから、すんごい重宝してるし」  飲みかけのビールグラスを手に、話している2人の傍に寄る。  無言のままに、するりと鞍崎さんの隣に腰を下ろした。  人の気配に、鞍崎さんの瞳が、ちらりと俺を見やる。 「初めまして。よく来るんですか?」  懐っこい笑顔を浮かべ、声を掛けた。  金色の髪に、ド派手なプリント柄のパーカーにスキニージーンズ。  スーツでビシッと決めている鞍崎さんとは対照的な俺の格好。  鞍崎さんの訝しげな瞳が、再び俺を見やった。  でも、瞬間的にくべられた視線は、直ぐに離れていく。

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