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第11話 その背を追いたい

「ん? ノンケ?」  俺は首を傾げ、ユリさんに言葉を向けた。  あまりにも示してもらえない興味に、ユリさんの知り合いであるだけのノンケなのかと思った。 「育ちゃん。ワンチャン狙いなら、大希は無理よ」 「チャラいヤツは、好きじゃねぇ」  ユリさんの言葉に、鞍崎さんの声が被る。  声と共に立ち上がった鞍崎さんは、胸の内ポケットから財布を取り出した。  数枚の千円札を取り出し、カウンターの上に置く。 「また、来るから」  ユリさんに対し声を放ち、軽く手を上げた鞍崎さんは、颯爽とバーを後にした。  カウンターには、ほぼ飲まれていないウーロンハイが、置き去りにされていた。  淀みない鞍崎さんの動きに、俺は、ぽかんとその後ろ姿を眺めるコトしか出来なかった。  何故かは、解らない。  見た目はもちろん、好みだった。  でも、誘う前からフラれた。  付け入る隙など、一分もない。  俺に、少しも興味がないなら、追い掛けても無駄なコト…、解っているのに、何故かその背を追いたくなった。  立ち上がりかけた瞬間、カウンターについた俺の手をユリさんが掴んだ。 「ここで声を掛けても、無駄よ」  俺の手首を掴んだユリさんに、視線で座れと促してくる。  俺は、その視線に従い、浮きかけた腰を椅子へと戻した。  追い掛けるコトを止めた俺に、ユリさんは、そっと掴んでいた手を離す。 「大希は、一夜限りの関係とか好きじゃないの。お互いを知ってからでないと、恋愛なんて出来ないって」  カウンターに置き去りにされたお札と鞍崎さんのグラスを片付けながら、ユリさんは、言葉を繋ぐ。 「ここでは基本的に遊び感覚で声をかけてくる男しかいないでしょ? だから、恋愛対象外」  カウンターの端にぽつんと置かれた試供品チークを手に取ったユリさんは、それを見やり、小さく微笑んだ。

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