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第15話 網野に乗っかる <Side 鞍崎
部署交流会。
円滑に仕事を進めるため、部署間の隔たりを失くそうというスローガンの元、会社からの助成を受け開かれる1ヶ月に1度の飲み会だ。
今回は、営業と販売マーケが対象だった。
交流会とは名ばかりだ。
結局は、同じ部署同士の者が集まり、ただ同じ場所で飲んでいるだけの飲み会と化していた。
なんの盛り上がりもなく、予約していた2時間が過ぎ、店を出た。
周りの空気を読み合っているサラリーマンたちが、店先に屯 している。
誰かが先陣を切って、“帰ります“の一言を発してくれれば、簡単にお開きになるのだが……。
「カラオケでも行く?」
口火を切ったのは、営業部の年配の女性社員だった。
まだ21時を回ったところ。
時間的には、まだまだ序の口だ。
酒は嫌いじゃないし、カラオケも嫌いではない。
でも、出来れば、22時からのドラマをリアルタイムで見たい……。
「あー、俺、今日は帰ります」
俺の隣に立っていた網野が、小さく手を上げ、声を発した。
「そ。お疲れ。あとは? 帰る人ぉ~?」
あっさりと網野の言葉を受け入れた女性社員は、帰る者は手を上げろと、片手を上げて俺たちを見回す。
「俺も帰ります」
ここぞとばかりに、俺も網野に乗っかり、片手を上げた。
「じゃ、ここで解散するのは、網野くんと鞍崎くんね。お疲れさまでした」
ぺこりとお辞儀をする女性社員に、俺と網野も頭を下げる。
一頻りのお疲れさまの応酬を経て、地下鉄へと、足を向けた。
示し会わせなくとも、自然と並んで歩く形になる。
ふと、視界の端にドラッグストアの看板が飛び込んできた。
昼間の出来事が、頭を過る。
「あ……。網野、ちょっと待ってて」
声に足を止めた網野が、不思議そうに俺を見やっていた。
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