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第16話 通行の妨げ

 1、2歩離れて瞳を向ければ、網野は歩道のど真ん中に立っていた。  夜の飲み屋街は、それなりの人通りがある。  歩道の真ん中で足を止めた網野を、数人が身体を半身にし追い越し、擦れ違っていく。  あれは邪魔だな……。  俺の“待ってて”の言葉に、素直に動かない網野。  でかい図体は、まるで電柱だ。  俺は戻り、網野の手首を掴み、ガードレールに寄せるように引っ張った。  大人しくし従った網野をそのまま誘導し、ガードレールに軽く寄り掛からせた。 「すぐ戻るから」  声を掛け、再びドラッグストアへと向かった。  網野を置いてドラッグストアへと入った俺は、3枚入りのマスクを手にレジへと向かった。  レジ待ちの間に、ウコンエキス配合のドリンクに目が留まり、それを2本手にする。  会計を終えて店を出ると、網野は入ったときと同じ場所に、寄り掛かっていた。  俺が掴んだ場所を手で擦り、眺めている。 「悪い。痛かったか?」  そんなに強く掴んだつもりは無かったが、急に引かれた腕が痛かったのかと心配になる。  声に驚いたように軽く身体を跳ねさせた網野は、顔を上げ、首を横に振る。 「あ、いえ」  中からドリンクを1本取り出し、残りをレジ袋ごと網野に差し出した。 「昼間、サンキューな」  不思議そうな顔をしながらもレジ袋を受け取った網野は、中を覗き、納得するように何度か頷く。 「別に良かったんですけど…。返って、ありがとうございます」  レジ袋からドリンクを取り出した網野は、にこりと笑う。 「いや。俺が飲みたかったんだよ。俺の分だけ買うのも変だろ」  手にしているドリンクを掲げた俺は、それをそのまま上着のポケットへと突っ込んだ。

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