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第17話 ユリさんと俺
地下鉄への道すがら、『Bar・Treffen』の看板が瞳に映った。
心臓が、どくりと鳴った。
今日は、行けない……。
バーで働くユリさんに出会ったのは、俺が高校2年の時。
ユリさんは、兄の友人で大学1年だった。
女性の姿で兄と一緒にいるユリさんを見て、兄の彼女かと勘違いした。
男性だと教えられ、女装するくらいなので、恋愛対象が男なのかと、自分の性癖を暴露した。
相談に乗って欲しかったんだ。
男しか好きになれない自分に、悩んでいたから。
ユリさんは、高校の文化祭で女装し、目覚めたらしいが、恋愛対象は、女の子。
俺とは、…違った。
落胆する俺に、ユリさんは、笑い飛ばす。
「好きなようにすればいいじゃん。私なんて、女の子の格好して、女の子と恋愛してるんだよ。傍から見たら、女性の同性愛、レズだよ」
あははっと、軽快に笑うユリさんに、少しだけの肩の荷が下りた気がした。
「人の目なんて気にしてても楽しくないじゃない? 自分のやりたいように、自分のしたいように、自信もって生きればいいのっ」
よしよしと頭を撫でられた高校生の俺。
それでもやっぱりオープンにすることは躊躇われたまま、この歳になった。
そのあとも、兄抜きで、時折一緒に出掛ける程度には、仲良くしていた。
「私の店においでよ。出会い、あるかもよ?」
俺が就職する頃には、ユリさんは、今の店で働いて、2年になっていた。
ユリさんの働くお店が、発展場と噂されているコトも知っていた。
「どうせその場限りなんでしょ? 俺はそういう関係は嫌なんで」
恋愛の対象が同性であったって、異性愛者と同じように、普通に恋愛する権利はある。
身体の関係だけの、欲望を発散するだけの関係なんて、俺は求めていなかった。
「自分の本性を隠して、自分を愛してくれる人に出会いたいなんて、矛盾してると思わない?」
首を傾げるユリさんに、俺は答えに詰まる。
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