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第18話 俺には出来ないコト

 わかってるんだ。  黙っていたら。隠していたら。  想いなんて伝わらない。  報われるコトなんて有り得ない。  言葉にすれば。曝け出せば。  受け入れてもらえるかもしれない。  ……だけど。  否定されてしまったら。  気持ち悪いと、嫌悪されてしまったら。  俺はたぶん、哀しくて生きていくのさえ辛くなる。  そんな人生をかけた挑戦は、俺には無理なんだ。  出会いの場へ一歩を踏み出せと、背を押すユリさんに、俺は動こうとはしなかった。  誘いを断る俺に、ユリさんは、無理強いすることはなかった。 「まぁいいわ。化粧品会社で働いてるんでしょ? 私とか店の子に、売り込みに来なさいよ。仕事、仕事。それならいいでしょ?」  方向性を変えたユリさんは、変に隠さなくて良い分、居心地は悪くないと思うわよ、と付け足す。  その誘いは、俺が安らげる場所を与えてくれようとしているのだと思い至り、時折、バーへ顔を出すようになった。  ユリさんとの出会いに思いを馳せ、上の空だった。  少し早足になっていた網野に、追いつこうと速度を上げた瞬間。  擦れ違う男の足に、足先が掬われた。  やべっ、転ぶっ。  近づく地面との間に、すっと入ってきた紺色のスーツ。  俺は、そのまま網野の胸許に、ダイブしていた。 「大丈夫ですか?」  俺を受け止めた網野が、焦ったように言葉を紡ぐ。 「ん、悪ぃ……」 「あら? あらららら? あ~れぇ?」  網野に寄り掛かる身体を起こそうとした瞬間、カンカンカンっと高く響くヒールの音が近づいてきた。

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