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第20話 バレたじゃないっすかっ
ちらりと周りを見回した。
男だらけのバーだが、イチャついているカップルらしい存在は居らず、カウンターに1人と、少し離れたボックスに3人しか客がいない。
「お待たせぇ~」
おしぼりに、ビール2つ、俺のためのハイボールをトレイに乗せ運んできたユリさんが、正面の席につく。
ユリさんの後ろから、従業員の1人であるニューハーフのナナちゃんが、ウイスキーのボトルとアイスペール、瓶に入ったサイダーの乗ったトレイを差し出した。
ビールとハイボールを各自の前へと置いたユリさんは、空になったトレイをナナちゃんへと渡し、ボトルの乗るトレイを受け取る。
一通りの作業が終わったユリさんに向け、口を開いた。
「なんか色々こんがらがってるんだけど、……知り合い?」
項垂れる網野とユリさんを交互に見やりながら、声を発する俺。
網野が顔を上げていないのを確認し、スマートフォンに文字を打ち込んだ。
『ゲイだってバレたくねぇんだけどっ』
画面を見せる俺に、ユリさんは、不思議そうに首を傾げた。
「あー、もうっ。バレたじゃないっすかっ」
今まで項垂れ、意気消沈していた網野が突然に叫んだ。
網野の大声に、俺もユリさんも、びくりと身体を跳ねさせる。
くっと顔を上げた網野は、目の前に出されているビールを一気に煽った。
ぷはっと息を吐き、テーブルの上のウイスキーに視線を止めた網野は、その瓶を手荒く持ち上げた。
カシャカシャと音を立て、蓋を開けたウイスキーの瓶を傾け、空になったビールグラスに、並々と注ぐ。
ドンッと瓶をテーブルへと戻した網野は、ウイスキーが並々と注がれているビールグラスを持ち上げ、それをも一気に飲み干した。
怒鳴り声から始まった一連の網野の動作に、俺もユリさんも呆気に取られていた。
「ぅえっ………げっほ、げほ」
生温いであろうウイスキーを煽った網野は、自分の無謀な行いに、噎せ返る。
噎せる音に、現実に引き戻された俺は、咳き込む網野の背を擦る。
「なんだよ? どうした?」
声にこちらへと向いた網野の瞳は涙に溺れ、俺を睨みつけていた。
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