20 / 30

第20話 バレたじゃないっすかっ

 ちらりと周りを見回した。  男だらけのバーだが、イチャついているカップルらしい存在は居らず、カウンターに1人と、少し離れたボックスに3人しか客がいない。 「お待たせぇ~」  おしぼりに、ビール2つ、俺のためのハイボールをトレイに乗せ運んできたユリさんが、正面の席につく。  ユリさんの後ろから、従業員の1人であるニューハーフのナナちゃんが、ウイスキーのボトルとアイスペール、瓶に入ったサイダーの乗ったトレイを差し出した。  ビールとハイボールを各自の前へと置いたユリさんは、空になったトレイをナナちゃんへと渡し、ボトルの乗るトレイを受け取る。  一通りの作業が終わったユリさんに向け、口を開いた。 「なんか色々こんがらがってるんだけど、……知り合い?」  項垂れる網野とユリさんを交互に見やりながら、声を発する俺。  網野が顔を上げていないのを確認し、スマートフォンに文字を打ち込んだ。 『ゲイだってバレたくねぇんだけどっ』  画面を見せる俺に、ユリさんは、不思議そうに首を傾げた。 「あー、もうっ。バレたじゃないっすかっ」  今まで項垂れ、意気消沈していた網野が突然に叫んだ。  網野の大声に、俺もユリさんも、びくりと身体を跳ねさせる。  くっと顔を上げた網野は、目の前に出されているビールを一気に煽った。  ぷはっと息を吐き、テーブルの上のウイスキーに視線を止めた網野は、その瓶を手荒く持ち上げた。  カシャカシャと音を立て、蓋を開けたウイスキーの瓶を傾け、空になったビールグラスに、並々と注ぐ。  ドンッと瓶をテーブルへと戻した網野は、ウイスキーが並々と注がれているビールグラスを持ち上げ、それをも一気に飲み干した。  怒鳴り声から始まった一連の網野の動作に、俺もユリさんも呆気に取られていた。 「ぅえっ………げっほ、げほ」  生温いであろうウイスキーを煽った網野は、自分の無謀な行いに、噎せ返る。  噎せる音に、現実に引き戻された俺は、咳き込む網野の背を擦る。 「なんだよ? どうした?」  声にこちらへと向いた網野の瞳は涙に溺れ、俺を睨みつけていた。

ともだちにシェアしよう!