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第21話 じわじわと広がる
なんで睨まれているのか、全くもって理解不能だ。
「好きですよっ。鞍崎さんがっ。もう、バレてるんでしょっ」
拗ねるように言葉を放ち、視線を外す網野に、俺はまた、ぽかんとする。
「そうですよっ。一目惚れでしたよっ。会社だって、鞍崎さん追いかけて入りましたよっ」
え?
「ストーカーの域ですよねっ。わかってますよっ」
自棄糞気味に言葉を放った網野は、綺麗にセットしていた髪を両手でわしゃわしゃと掻き混ぜ、ボサボサの頭のままに、また、俺を見やる。
「キショいですよね。怖いですよね。フればいいじゃないですかっ」
投げ槍に言葉を吐いた網野は、頭を抱え、天井を仰いだ。
「あー、もう。また、フラれるのかよーっ」
どこに当てるわけでもなく嘆く網野の言葉が引っ掛かる。
また?
「待て待て。またって何だよ?」
色々な言葉が消化出来ていない。
好きな人から告られたという事象や、網野も同性愛者であろうという事実が、早すぎる展開に置き去りになり、“また”という直近の疑問が口を衝く。
ぅうっと恨めしそうに唸った網野は、親の仇でも見るかのような瞳で、俺を見やった。
怨念の籠っていそうなその視線に、思わずたじろぎ身を引いた。
「4年前に、誘おうとしたんですっ。…チャラいヤツは、好きじゃねぇって、告る前に秒で断られましたけど……」
だんだんと尻窄みになった網野の声は、しょんぼりと床に沈んでいく。
「顔や容姿は好みのタイプだけど、チャラいヤツは、好きじゃないって。遊んで捨てられるのが目に見えているから、断ったって」
話ながらも、へなへなとカウンターに突っ伏す網野。
「俺、そんな酷いヤツじゃないのに。好きになったら一途だし、そんな遊べるほどモテないし。お友達からとかでも全然良かったのに。マジで鞍崎さんに惚れたのにっ……っ」
網野は、テーブルに突っ伏しながらも、溢れる感情を消化しきれず、床を踏み鳴らす。
アルコールにやられた網野は、幼児返りをしているようだ。
さらっと2度目の告白をかます網野に、俺の胸には、じわじわと告白されたコトへの照れが広がって来ていた。
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