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第22話 過度な期待はしない

「悔しいから、チャラく見える金髪やめて、服装にも気を付けて、鞍崎さん追っかけて、この会社に入ったんですっ」  不貞腐れたように放たれる網野の声に、俺の顔には、溢した水が広がるように赤みが増していく。 「諦めきれなかったんですもんっ。会社入って、働いてる鞍崎さん見て、その姿もカッコ良くて。マジで、惚れ直しましたよっ」  網野が、…俺の好きな人が、……俺を好き?  そんな嘘みたいな現実は、簡単には、飲み込めない。  過度な期待は、したくない。  報われなかったときの虚しさを何倍にも跳ね上げるだけだから。  だけど、何度となく放たれる“惚れた”という文言に、俺の脳がじわじわと理解を示し始める。  ガバッと顔を上げた網野は、涙が溢れそうな瞳で俺を見やった。  赤く染まる俺の顔を瞳に映した途端、網野の顔が、くしゃりと歪んだ。 「もう少し時間をかけてじっくり落とそうと思ってたのに。落ちなくても…、先輩と後輩でも……もう少し鞍崎さんの傍に居たかったのに」  うぅっと泣き出しそうな音を放った網野は、しょんぼりと肩を落とし、俯いた。 「もう、無理じゃないですか……。よそよそしくなるの目に見えてるじゃないですか、壁を作られるじゃないですか……」  ぐずっと鼻を鳴らした網野は、はぁっと、あからさまな溜め息を吐く。 「俺、明日から、どう接すればいいか、わかんないですよぉ」  海の底まで沈んだような落ち込んだ声で、吐かれる弱音。  本人を目の前にしていう台詞なのか?  そんなことを思うと、少し可笑しくなる。  笑いそうになる気持ちを、必死に引き締めた。  笑いそうになる思いを引き締め、捲し立てた網野の言葉を反芻する。  出会ったのは、4年前?  そんな昔の話で、秒で断ったコトを考えると、記憶に残っていないのは、仕方ない。  でも、即刻で断ったなら、本人にあんなに長々と理由を伝えるはずがない。

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