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第24話 出来るもんなら、やってみろっ

 網野は、まるで好きだという気持ちを伝えきれずに、ガウガウと文句を言う大型犬だ。  噛みつくわけにもいかず、でも大人しくもしていられないというジレンマに、網野は吠える。 「反則ですよ、あんな可愛いのっ。普段イケメンのクセして、照れたら超可愛くて、俺マジでキュン死にするかと思ったんですからねっ」  なんで俺が、怒鳴られてんの?  可愛いって、なんだよっ。  キュン死にって、なんだよっ。  なんだよこの、羞恥プレイはっ。  共感できない怒鳴り声に、腹が立つ。  俺は、鞄の中を探り、試供品の口紅を取り出した。  鏡もない場所で、適当に口紅を走らせた。  こんなもんで死ぬわけねぇだろっ。  出来るもんなら、やってみろっ。 「キュン死ねっ」  俺のカウンターに、網野は、一瞬の怯みを見せた。 「わかって塗ってます?! ってか、キスしろってことですか? しますよ? どうせフラれるんだし、嫌われようが嫌がられようがもう、どうでも良いと思ってますからね、俺っ」  投げ槍な言葉と乱雑な動作で、網野は、俺の顎を掴んだ。  開き直りやがった……。 「誰もキスしろなんて、言ってねぇっ」  近づく網野の顔を両手で、押し退ける。  懸命に反抗する俺の両方の手首が、片手でまとめて捕まれた。  俺の両手は、網野の片手に膝上に下ろされ、捕らえられた。  目を据わらせ、俺の顎を捕らえ続けている網野。  網野の親指がするりと動き、俺の唇の上を這っていった。  口紅が拭われ、固定されたままの顔に、網野の唇が、ゆったりと近づく。  避けられた。  逃げられた。  でも、避けたくなかった。  ――はむっ。  食われた……。  キスというよりは、補食に近い。  網野の唇に、俺の下唇が挟まれる。  唇の感触を堪能するように、幾度となく俺の下唇が食まれた。  ぺろりと俺の唇に舌を這わせた網野は、名残惜しそうに顔を離した。

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