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第26話 これは現実なんでしょうか <Side 網野

 わー! わーっ! わぁああぁっ!  心の中で盛大に叫んだ。  俺の腕の中で、鞍崎さんが……寝てる。  俺が抱き締めている腕の中の温かい存在は、紛れもなく、鞍崎さん……だ。  えっ? え?  なにこれ。夢? 幻?  俺、とうとう、ここまで来ちゃったの?  寝起きに鞍崎さんの幻覚見ちゃうほど追い込まれちゃってんの?  メガネかけてない鞍崎さん……ヤバい…っ。  俺の部屋着、着てる鞍崎さん、ヤバいっ。  鞍崎さんの寝顔…………ヤバいぃぃ。  これは、あれか?  消える前に、堪能するべき?  欲望を爆発させようとした瞬間、鞍崎さんの目蓋が、ぴくりと動いた。  ふんわりと持ち上がった目蓋の裏から、ぼんやりとした瞳が覗く。 「ん………はよう」  寝起きで、少し掠れたセクシーな鞍崎さんの声が脳を揺らす。  おはようございます。  …の言葉が出ない。  鞍崎さんを抱き締めたままの身体が、緊張に強張る。 「おまえ昨日、酔っぱらって……」  言葉を紡ぎながらも鞍崎さんは、俺の腕を退け、上体を起こした。  ぐーっと身体を天井に向かい伸ばす。 「俺の渾身の告白聞いた瞬間、……落ちた」  枕の横に置かれていた眼鏡を手に取り掛けた鞍崎さんは、言葉尻に合わせ、俺へと瞳を向けた。  覚えてねぇ………。  記憶を呼び起こそうとするように、俺の瞳が、うろちょろと彷徨(さまよ)った。

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