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第27話 穴の中に埋まりたい
「昨日、なんか予定あったんじゃないのか?」
ベッドの中で横になったままの俺の頭に、鞍崎さんの手が触れる。
「2次会、断っただろ……?」
鞍崎さんは、俺の顔を覗き込むように首を傾げる。
そこは、大丈夫だ。覚えてる。
「ドラマ、見たいかと思って……」
無意識に、“鞍崎さんが”という接頭語のつく返しをしてしまった。
自分が見たかったで、良かったのに。
はっとして、鞍崎さんを見上げる。
「そんなとこまで、知ってるのか……」
鞍崎さんは、がっくりと項垂れる。
「てかお前……記憶あんの?」
疑いの眼差しが、降ってきた。
俺はまた、瞳を彷徨わせた。
「せっかくウコンドリンク買ってやったのに」
「飲むタイミングなかったじゃないですか……」
落ち込んだ声で放つ言葉に、鞍崎さんは、じとっとした瞳を向ける。
「ヤケ酒、煽る前に飲めばよかったじゃねぇか」
くいっと上がる口角は、笑うのを我慢しているかのようだ。
そうだ。
ユリさんに会って、俺が鞍崎さんのコト落としたんだって誤解されて、バラされて……。
「あのパニック状態で、明日のためにウコン飲もうってなると思います?」
ぶふっと吹き出す鞍崎さん。
徐々に蘇ってくる記憶に、泣きたくなる。
悲しくなってきた俺の眼前に、俺のスマートフォンが差し出された。
「ユリさんから動画、届いてるだろ。見ろ」
スマートフォンを差し出しながらも、鞍崎さんは、思いっきり顔を背けている。
俺は、のそりと上体を起こし、ベッドヘッドへと背を預ける。
言われるままに、スマートフォンのロックを外し、動画を再生した。
机から煽るように撮られた映像は、紛れもなく盗撮だ。
盗撮臭、ぷんぷんだ。
そこに映されたのは、昨日の俺と鞍崎さんの一部始終……。
穴があったら、入りたい。
いっそのこと、穴の中に埋まりたくなる映像が延々と続いていた。
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