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第28話 必要のない罪悪感に諦める俺 <Side 鞍崎
バーから、ほぼ拉致られるように網野の家を訪れた俺。
網野を寝かせて帰ろうと思っていた。
あんなにベロベロでは、話もなにも出来たもんじゃない。
スーツのままで寝てしまえば、皺になってしまう。
俺は、家に着くなり、網野に着替えるように指示を出す。
酒が回り、ぼんやりとしながらも、網野はリビングに放られていた部屋着を拾い、洗面所へと消えた。
着替えている最中に寝てしまいそうな雰囲気に、リビングで、網野の着替えが終わるのを待っていた。
遅くなるようなら、起こしに行こうと、構えていた。
数分後、網野が戻る。
長袖シャツにスウェットを履いたその手には、同じような服が握られていた。
その手が、ずいっと俺に差し出される。
「鞍崎さんも着替えてください。皺になります」
網野の言葉に、俺は腰を上げながら、否定の声を紡ぐ。
「いや……」
「大丈夫です。洗濯してあります。綺麗ですっ」
服が汚れているから嫌がったと思った網野は、全力で綺麗であることをアピールしてくる。
「だから、俺、帰…」
“帰る”という言葉の音を察した網野の顔が、くしゃりと歪んだ。
必死に泣くのを我慢している子供のような顔。
その表情に、酷く無慈悲なコトを言っているような罪悪感に見舞われる。
俺は帰ることを諦め、部屋着を受け取った。
上着を脱ぎ、ネクタイを緩める間も、網野は、じぃっと俺を観察してくる。
その視線に堪えられなくなった俺は、部屋着を手に、洗面所へと逃げ込んだ。
マジか……。
着替えてリビングに戻ったときには、網野が床で寝息を立てていた。
仕方なしに叩き起こし、ベッドまで引き摺る。
雪崩れ込むように、ベッドへと寝かされ、絡みつく網野の腕や足を剥がしきれず、俺は再び、諦めた。
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