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第3話

松燕(しょうえん)……しょうえん……! 猫の鳴き声が、男の名を呼んでいる。 おれは男から引き離され、もやの中にいた。 いや、ここは猫の腹の中だ。 もやの向こうに、草むらに投げ出され横たわる男の姿がうっすらと見える。 湯に浸かっているような温かさに包まれ、通常なら心地よく感じたかもしれない。 けれど悲痛な叫びがおれの魂を凍えさせていく。 松燕、約束を違えるな。 逝くでない…。 松燕、松燕……。 猫の泣き声が頭にこだまする。 もやが濃くなり、もう男の姿は見えない。 けれど、猫の哭き声はいつまでも頭に響いていた。

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