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第4話

気付くと長い廊下を歩いていた。 綺麗な(ふすま)が並ぶ、美しい屋敷だ。 時々人とすれ違う。 若い者もいれば年寄りや子供もいる。 どこの襖にはいってもいい。 そこが自分の居場所となる。 なぜか、そう知っていた。 けれどおれはどこの襖も開ける気にならず、ずっと歩き続けている。 ふと立ち止まる。 おれは、なんでここに居るんだ。 なんでおれは襖に入らない。 長い廊下の後ろを振り返った。 前も後ろも同じ襖が並んでいる。 すぐに理解した。 おれは死んだんだ。 あの猫に喰われて死んだ。 あの猫はおれを喰いたかったわけじゃない。 飼い主の男の体のそばにあった『モノ』をどけただけだ。 そして…おれは死んだ。 猫に喰われ、あのまま腹で溶けたのか…それはわからない。 とにかく猫の一部となり、死んでここに来たんだ。 そうか、ならばおれは襖を開けても大丈夫だ。 前の生をここですすいで、きれいな魂となる。 そして次にどこかへ行くまで、みなここで過ごす。そのための場所。 そう思った途端、横にある襖が開いた。 「遅かったな。どこかで道草していたのか?」 それはあの古道具屋の男だった。 呼ばれるままおれは男のいる襖の中へ入っていく。 そこは長屋の部屋だった。 きっとここは生前この男が暮らしていた部屋なんだろう。 おれの住む長屋とは比べ物にならないくらい綺麗で、小さな庭もあり、部屋が三間もある。 「腹はすいていないか?うまい油揚げが手に入ったんだ」 ニコニコと男がおれに笑いかける。 まともに口をきいたこともないのに、こんなふうに親しげに話かけられて驚いた。 「どうした。…オマエは本当につれないな。油揚げでは不満か?ほら、こっちへ来いよ」 おれに向かって男が手を差し伸べる。 どうしていかわからずに、すこしづつ近づくと、男の手がおれの肩をとらえ、ぐっと抱き寄せられた。 強引に膝に座らされ、頭を撫でられる。 驚いて男を見ると、ニコニコと笑ったまま顔を寄せて来た。 さらに驚いて、両手でグッと顔を押しやる。 けれど男はニコニコとしたままだ。 耳の後ろと首筋をくすぐられ、ふわ…と力が抜けた。 「ここが、好きだろう」 そう言う男の顔をトロンとした目で見上げる。 ああ、おれはこの男に甘えていいんだ。 肩に顔をすりつけた。 男は飽きることなくおれを撫で続けた。

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