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第7話
「ふん、手荒にされて嬉しいとは、異常性癖者め」
どうしようもない苛立ちをぶつける。
「はははっ。オマエには異常という感覚などありもしないくせに。どこでそんな言葉を憶えた?」
そう楽しげに笑われてハッとした。
苛立ち口汚く相手をなじるなど、おれらしくない。
いや、そもそもこんな状況だとは言え、簡単にこの男を抱くなど、自分のしたこととは思えなかった。
たしかにおれは生前この男に淡い恋にも似た気持ちを持ってはいたが、だとしても……。
「さあ、次は手荒に抱くか?それとも優しくしてくれるのか?まさか、これまでみたいに、ただ俺ばかりあえがされるわけではないだろう?」
「……なんだ、まだやるのか?」
「もう、やらないのか?」
この男は、今までどういう生活をしていたのか。
ただ生前をなぞっているだけなんだろうが…。
いや、まさか……。
「あんた、自分が死んだってわかってるか?」
「……?それがどうした。オマエも死んだから、こうして俺の元に来てくれたんだろう?」
さすがに、自分のことはわかっているようだ。
当然、次の生への準備をしているというのも理解できているのだろう。
「…そういえば、オマエはどうして死んだんだ?俺が死んでからどのくらい生きた?」
「おれは…あんたが死んですぐだ。……猫に……喰われた」
「そうか。猫神の代替わりがあったのか。ずいぶん早かったんだな。もしかして…俺を追って来てくれたのか?」
「……べつに……」
猫神…?あの猫又はそんなすごいもんなのか?
「次の猫神はどの猫又だ?」
「さぁ……」
「代替わりのために喰われてやるのに、『さぁ』ってことはないだろう」
「……ふん。おれを喰らったのは……ブチだ」
「ブチ…?オマエと同じ名だな。しかしそんな猫又いたか?」
「おれの名は……文治だ」
「ふふ。そうだなオマエは比類なき猫神ブチだ。まあ、オマエを喰らったんだ。次代のブチもすぐにオマエと同じくらい力のある猫神になるだろうよ」
言いながら、松燕はおれの一物をさすり猛らせようとする。
「本当にまだするのか」
「なぜそんなつれないことを言う?たしかにもう死んだのだから、霊力を保つために一晩に何度も交わる必要はないかもしれないが…。ああ、そうか、俺にもっと欲しいと乞わせたいのだな」
そう言って、松燕は自分の尻を使っておれの一物をこすり始めた。
「オマエの一物がここに欲しくてたまらない。オマエと交われば快楽しか感じない身体だ。もう以前のように壊してしまうかもしれないだなんて心配もいらない。なにせ、もう死んでいるからな。さっきのように噛み付かれても、それこそ喉を喰い破られたって平気だ。ほら…来い……」
ふと、松燕の尻に擦られている自分の一物を見た。
起ってはいるがいつもと変わらず、腕ほどの太さになどなっていない。
おれはツプリと指を差し込み、松燕の中を確かめた。
「なんだ…?なぜ今さら指を……」
三本、四本と差し込む。
松燕のそこは差し込む指の数にあわせて不思議な広がり方をみせた。
四本でもかなりキツいが、無理に押し込めば、また広がって本当に腕まで入ってしまうかもしれない。
猫又に身体を変えられたと松燕は言っていた。
そして性交の時に与えられた感覚は全て快楽に変わると。
猫又は腕ほどの太い真羅で貫いて、むせびあえがせていたのだろうが、おれはほんの少し…小指の爪の先をこの穴に差込んだだけで、快楽に溺れて良がり狂うこの男の痴態を見てみたい。
「松燕、寿命が百年縮むほど性を搾り取ると言っていたのはどうなった?さっきは気持ち良さそうにあえぐばかりだったじゃないか」
「ぁ…それは…んんぁ」
「淫乱な男だ。少し指でかき混ぜられたくらいでこんなに尻を振って」
「ん…!んぁっ!オマエこそ…こんな事どこで憶えたんだ。まさか俺が死んだ後に……いや…それは言っても仕方のないことだな」
「ふん。物わかりがいいな」
猫又の事など知らぬ。勝手に勘違いしていればいい。
しばらく指に翻弄され尻を振っていた松燕だが、こらえきれずに達して、また自分からおれの一物にまたがった。
入りかけを下から強引に突くと、松燕が苦しそうなうめき声を上げてのけぞる。
けれど、その顔は恍惚とし、悦びに口の端を震わせていた。
ぐいと髪を引っ張って、耳に噛み付く。
「乱暴にされるのが好きか?」
「乱暴は…好きじゃあない。オマエが俺を激しく求めているというのが嬉しいんだ」
「嘘ばかり」
首筋に牙をぐっとめり込ませた。
「本当だ。今だって…ぁぁんっく。痛い…けど嬉しくて、気持ちがいいんだ!ぁああっ!」
クッと牙に力を込めると松燕が叫ぶ。
けれど、本当に嬉しそうで……。
また場所をかえてかぶりつき、牙へ松燕の意識が行けば、熱くぬめる松燕の中を荒々しく穿つ。
「ぐぐぅ…好いィ!…んんぁあ、駄目だ…!好いぃぃっ…!どんどん…ぁ…好くなってく」
「……生前と比べてならば…どうだ?」
潤んだ瞳をおれに向け、快感にむせびながら懸命に声を上げる。
「好 い!ぁっぁあああ!嬉しいんだ。オマエをこうやって受け止められて。以前ならとっくに壊れていた!ぁんあ!…嬉しい!好きだ…!オマエが好きだ」
おれの唇に吸い付き、首にすがる。
その様子におれも焚き付けられ、夢中で松燕を押し倒し、激しく腰をふるって中をむさぼった。
「んっぁっっ!好い!……ああ、はげし…ぁああ!」
喉をからし松燕が叫ぶ。
けれど、息を整え少し咎めるように睨んだ。
「ん…くっ。オマエも…俺を想っていてくれるんだろう?なぜ、言葉をくれない?」
「……それは」
「なぁ…好きだと言ってくれ。言葉も欲しい」
「………」
「俺は…好きだ。んぁっ!ぁあっオマエが好きだ!」
おれに揺さぶられながら、また松燕がおれの唇を求める。
舌がからみ、唾液がまじり、唇を食んで、視線が絡む。
松燕の目は確かにおれを捕らえ、おれを求めていた。
「オマエが……すきだ………」
松燕が泣きそうな声で言う。
「………」
「ん…ぁ…すきだよ…。すきなんだ…。なぁ…オマエは……?」
快感に身を震わせながらも、すがるような目でおれを見つめ、不安げに言葉を乞う。
「……。おれも…好きだ」
我慢できずに言葉を返してしまった。
「…もう一度言ってくれ」
松燕の催促に、堰を切ったように感情があふれた。
「好きだ…松燕。あんたが好きだ」
松燕がホッとしたような表情で、おれの頬をなでる。
「好きだ…松燕。淫乱で愛しい松燕」
「…淫乱はオマエのせいだ。オマエだけが俺を狂わせる」
また、深く口づけた。
「松燕……好き…なんだ。本当は…すっと好きだった」
「うれしいよ。…この場所で、少しずつ一緒に薄れて行こう」
「ああ、ずっと一緒だ。……大好きだ、松燕」
「俺もだ……俺も、オマエが大好きだよ。愛しい、愛しい、俺のブチ」
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