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第12話
「…先輩にご用ですか?」
あの男はニヤリ顔をして、付いてこいと顎で通りの向こうをさした。
大通りから一本路地に入ると繁華街の中ほどに、地下へと続く階段があった。
うわ~怪しい店に連れて行かれるのイヤだなぁ、と思いつつ後ろに付いていった。
入った店はバーのようだ。仄暗い室内が怪しい雰囲気を醸している。
カウンターから少し離れたボックス席に座り、ビールを注文した。
カクテルなんて洒落たお酒を飲んでる場合じゃない。
「とりあえずビールで乾杯?」
「しません。僕に何の用でしょう」
上品なグラスに注がれたビールを一気に呷る。
「単刀直入に言うよ、真幸から離れて。君は相応しくない」
「嫌です、無理です、出来ません」
想定内の言葉にやや毒気を抜かれつつ早口で答えた。
当然相手はムッとした顔をしている。
「じゃあ僕はこれで」
席を立とうとテーブルに手を付くと手首を取られた。
「キミの知らない真幸を僕は知っている。真幸は僕のだ」
「先輩はモノじゃない」
一瞬で怒りのスイッチが入ったようだ。ヤツに胸元を掴まれた。
鼻がくっつく位顔を近づけて睨みをきかせてきたが、胸ぐらを掴んだ腕をはたき落とした。
「話はそれだけ?」
バン!とテーブルに諭吉を叩きつけて店を出た。
ああ!腹が立つ!
先輩を何だと思ってるんだ!
僕の愛する大切なユキさんを!
グラスビール一杯で僕の怒りのボルテージは解放された。
怒りが収まらず二駅の道のりを歩いて自宅に帰った。
はーっ、疲れたが気持ちは落ち着いてきた。
夕食を食べていない事を思いだし、冷蔵庫をの中の残り食材で炒飯を作った。
卵炒飯激ウマ。
先輩と食べたかったな…。
ゴロンと床に寝転がり、人寂しくてスマホの画面を覗いた。
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