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第20話
バチン!
音とともに修漣が膝から崩れ落ちた。
先輩がヤツの頬に平手打ちを喰らわせたから。
「…ほ…宝漣は僕の物だって言ってるじゃないか!」
「それと志摩を傷つけるのは違うだろ」
「だって、だって宝漣は…」
腫れた頬を両手で押さえて吠える。
「…宝漣は、僕だけの兄さんじゃないか!」
「俺は宝漣じゃない、柴田真幸だ。今のオマエ、棗の兄じゃない」
もう、僕の存在はどこか迷子になっていて、僕はただ黙って聞いているしかなかった。
「こんなに兄さんが好きなのに?どうしていつもいつも僕を受け入れてくれないの?」
…狂ってる。
異常な執着…。
「…また、僕と一緒に来世に翔ぼう?兄さん?」
えっ?来世?翔ぶ?
微笑んでいる様子に寒気がする。
「修…!」
先輩が叫ぶ…。
修漣の動きがスローモーションのように見えた。
先輩に向かって飛びかかる…!
…が、その体は引き戻され男の胸に捕らえられた。
「た…田中さん…?」
どういう事なのか…田中さんが修漣を抱き締めている…。
「もう、いいんじゃないの?ナツメ…」
「嫌だ!…に…兄さん…ぼくの…にいさ…ん…うわぁぁん」
子供のように泣き出してそれを田中さんがあやしている。
「今回、修漣の記憶が《戻った》のはここ1ヶ月くらいだったんだ」
それ、戻らなくていいやつ…。
「で、気づいた時には柴と志摩ちゃんがくっついてて…焦ったんだろう」
柿崎さん、アンタどっちの味方なの!?
「…今までは深い仲になる前に殺っちまってたからな」
…は?聞き捨てならない恐ろしい言葉が…。
「もしかして、僕がいろいろ被ったのって…」
「…当たり…今回のは事故だけど、それまでのはね…」
怖っっ。
死ななくてよかった…。
先輩は…随分とお疲れの様子でベッドに腰かけている。
僕はようやく柿崎さんによって両手両足が自由になった。
「先輩、帰りましょう」
僕を見上げる先輩の目に小さな光が灯ったように見えた。
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