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第28話
その時は、酔っ払いの戯れ事として受け止めた。
だが伊藤は僕が思っていたより本気だった。
研修二週目が終わってからの飲み会では僕にとにかく絡んできた。
お酒を勧めたり食べ物を取り分けてけれたり、ずっと隣に陣取ってあれこれと世話を焼いた。
もちろん僕はそのくらいではびくともしない。
そして研修三週間終わりの懇親会(飲み会)でこれ以上ないくらい飲まされ不覚にも意識が混濁してしまった。研修が全て終わったという気の緩みが原因だと思う。
同室ということで伊藤が僕を宿泊先に連れ帰ってくれたが、もちろんそれは下心アリアリの優しさだった。
ベッドに押し倒されていろいろされたらしい…。
意識を取り戻した時は素っ裸で、僕は混乱した。
だって大の字で転がる僕の股間にあるアレを…伊藤は咥えていた…。
恐ろしい…。
僕は伊藤を突き飛ばしてバスルームに立て籠った。
…朝が来るまで…。
「…これが全てです…」
「……何で…」
「はい?」
あれ?まだあった?
「…何で名前呼び?」
そこ!?
「…それは…あの…」
「……」
あぁ、またジト目…。
先輩はリビングの椅子に座ったまま、動かない。
「それは…せめて名前呼びすればもう寝込みは襲わないと…」
「脅迫か!」
まあ、それに近いかな…。
関わりたくない、っていうのが本音かも。
幸い伊藤は北海道支社に配属になったからそれっきり忘れてた。
「あの~もうよろしいでしょうか…」
「……」
まだジト目…。
「僕が愛しているのはユキさんだけです!もう勘弁して下さい」
「ん、許す」
ユキさんがようやくニコリと笑った。
まだ明るい午後、ユキさんと抱き合う。
レースのカーテンを通った柔らかい日差しがユキさんの肌を照らしている。
「背徳的ですね、こんな昼間から…」
シャワーを浴びてまだ湿った髪を指で混ぜながら毛先に口付けた。
「こっち」
首に腕を回されぐいっと顔を近づけ…ちゅっと、ユキさんからキス…。
これはクる…。
お姫様抱っこをしてベッドに二人で倒れ込んだ。
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