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第32話

月曜日、課長からの連絡は想定していた内容だった。 「伊藤君の面倒見てあげて」 ええ~嫌です~とは言いたくても言えないサラリーマンなので 「分かりました」 と言っておいた、渋々。 僕の机の隣の空きスペースにいつの間にか新しい机とノートパソコンが置いてあった。 ここが薫の席になるのだろう。 「今、人事の担当から説明受けてるからあと…30分位したらここに来るよ」 「は~い」 柿崎さんに返事をして仕事を始める。 やることが色々あって…気が散るなぁ…。 柿崎さんの言った通り、30分ほどして薫がやって来た。 「今日からお世話になります。伊藤薫です」 「分からないことだらけだろうから皆助けてあげるように」 も~学生じゃないんだから甘やかさなくていいのに。 「特に志摩。同期なんだから」 課長に言われなくたって分かってますとも。 余計な事は言わずに こっくりと頷いた。 「伊藤くん、志摩ちゃんの隣の席に着いて仕事教えてもらって」 「分かりました。ありがとうございます」 課長に にこっと微笑んでから隣の席に座る。 「志摩ちゃん、よろしく」 なに!その“志摩ちゃん”呼び! にやり、その笑みは僕の背筋をゾッとさせるようなものだった。 「先輩~聞いて下さいよ~」 手にしている缶ビールをテーブルにドン!と打ち付けて先輩に訴えた。 薫が出勤初日のため気を使って定時に業務終了となったのだが(課長命令)、僕は先輩の仕事終わりを早めるべく雑用をこなし、早々に先輩を拉致した。 「もう何度目だ?」 「だって~」 薫がうちの部署に来て絶対に何か企んでる、と先輩の部屋に入ってからずーーっと先輩に語った。 薫のあの表情……怖い…。 「そんな大きい図体して…何かあったら逃げろ」 …逃げろって……まぁそうだけど…。 …それだけ? 「先輩は心配じゃないんですか?」 じ~っと先輩を睨んでビールを煽った。 「体格じゃ負けないだろ」 そーゆー問題じゃない。冷たい。 「まあ、僕は先輩にしか興味ありませんけど」 ちらりと先輩を見ると ちびちびビールを飲んでいる割には顔を赤らめている。 んー色っぽい。 先輩、仕事中は隙がなくてカッコいいけどこうして部屋にいる時は隙だらけで可愛いんだよ~。 自分でも顔がにやけているのが分かる。 はぁ~癒される…。 「志摩、顔がキモい」 「酷い…先輩に見とれてるだけなのに…」 「…ここにちゃんといるだろ?」 …先輩の顔が近づいてきて……唇が……僕のそれに… …触れた……。

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