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第33話
「せん……ユキさん…」
膝立ちで見下ろしてくるユキさんの顔が再び近づいてくる。
堪らず両腕でユキさんの体を捕らえ深く口付けた。
ユキさんの口の中に舌を差し入れお互いのそれを絡ませる。舐めて、吸って、深い官能を呼び覚ます合図のように口腔を貪った。
見上げていたはずのユキさんをいつの間にか組敷き、めいっぱい開けた口の端からは唾液が流れ落ちた。
「志摩…俺はここにいる…」
口付けの合間にユキがそう言った。
うん、わかってる。
わかってるけど…不安なんだ。
僕はユキだけいればいい。
ユキだけを見て、愛して生きたい。
本当は一秒だって離れたくない。
「ユキ…僕を…僕を離さないで…」
ユキが僕の体をぎゅっと抱いてくれた。
午前3時。目を開ければ目の前に愛しい人が…。
そうだ、ユキに抱っこされて寝ちゃったんだ …。
子供か!
ああ~せっかくユキさんの部屋にいるのに~!
自分の不甲斐なさを呪いつつ、ユキさんに腕を絡ませて暫し幸せな眠りについた。
「志摩ちゃん、そろそろお昼行こ」
薫は12時10分前に声を掛けてくる。
12時ちょうどに鳴るチャイムを待つと食堂が混雑するから周りを出し抜いていく作戦なんだけど…。
「僕、今日は先輩と約束があるから」
「ふーん…じゃあ先に行くわ」
何かしら言われるかと思ったけど…意味深な視線を残して…薫は席を立った。
今日は先輩とご飯~、軽く浮かれながらもうちょっとだけ仕事をした。
「え?学会?」
昼ごはんを食べながら先輩が出張に行く話を出してきた。
「O県で開催されるから泊まりで行ってくる」
「え!いつですか?誰と行くんですか?」
「今度の金曜日からで田中さんと…」
ん?
「…伊藤…」
「ぐぼっ……な…な…何で?」
僕は食べていたナポリタンを無理やり飲み込んで勢いよく立ち上がった。
「僕は?」
「志摩、落ち着け」
「いや、だって無理でしょ?」
何でよりによって先輩と薫が!!
いくら田中さんが一緒に行くっていっても嫌だ!
「僕も行きます!絶対に!」
「志摩!落ち着けって言ってる!」
僕の顔を両手でバチんと挟んで、先輩が諭すように声を掛けてくる。
「いいか志摩、これは仕事。わかるな」
ジト目で先輩を見ても流されてくれない。
「俺は大丈夫だから待ってろ」
大丈夫かもしれないけど…嫌なものは嫌…。
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