36 / 115

第36話

夢を見た。 夢だとわかる夢。 …もしくは…記憶…。 頭痛がする。 歯を食い縛ったせいだ。 血の味がすると安心する。 生きていることを実感するから。 乱暴な行為で責められ、唇を噛んだせい。 緩んだ腕の縄を解く。 脚のそれも。 一晩中突かれ喘いで声が出ない。 怠い体を起こし這うように進む。 障子を開けると月が出ていた。 びくっと体が強張った。 ……見られている。 日陰に飼われ、誰の目にも曝されることのない自分の存在。 月に、見られている。 あの人に知られてしまう…。 惨めで穢れた自分を…。 不意に背中を撫でられ、全身に鳥肌が立つ。 嫌、触らないで! 出ない声で叫んだ。 這いずって逃れる。 駄目、だめ…! 「…志摩、夢見てた?」 せん…ぱい…? 先輩出張行って…何で? 「明日…明日帰ってくるんだと…思って…」 「志摩…」 伸ばしてきた手が、僕の頬を拭う。 涙…出てた…。 「ごめんなさい…僕…」 感情が噴き出す。 「…泣いていて いい」 抱き寄せてぎゅってしてくれた。 「ユキ…ユキさん…」 涙がぽろぽろ溢れて、でも止められない…。 何が悲しいのか… 何が辛いのか… 僕は… 今、幸せなのに…。 胸が痛むのは何故なんだろう…。 「必要な発表は見たから帰って来た」 それって…心配してくれたんだよね。 「ありがとうございます」 二人でベッドに腰を掛けているんだけど、僕は少し落ち着かなくて…。 その…ちらっと先輩の顔を見て…見ていられなくて…。 「志摩…」 先輩の手が僕に触れた。 ぶわっと体から熱が放出される。 …先輩に欲情してる…。 僕の目を覗き込み、顔を近づけて…キスされた。 ダメ…スイッチが入る。 「ユキさん…欲しい…」 ベッドに押し倒して深く、深く口付けた。 ユキさんはいいとも駄目とも言わないで、ただ僕を受け入れてくれた。 時折頭を抱き寄せてキスする。 そんなユキさんに僕は自分の熱塊を捩じ込む。 幸せなのに悲しくて、うれしいのに辛い。 僕の中の矛盾。

ともだちにシェアしよう!