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第42話

「や…止めて…薫…」 「ふふ、どうしようかな」 後ろ手に縛られていて体勢がたて直せない。 俯せだった体を辛うじて仰向けに変えたところで、今手を出されたらひとたまりもない…。 にじり寄る薫。 身を縮こませる僕…。 「か…薫は何がしたいの?僕をどうしたいの?」 いつでも蹴られるように足を宙に浮かせた。 「志摩ちゃんを手に入れたい…」 え? 「愛してるんだ…」 「…どうして?」 「…信じてもらえないかもしれないけど…昔から好きだった」 …嫌な予感…。 「…伊藤薫になる前から、ずっと…」 …お前もか…。 「…あれ?驚かないの?」 「…驚かないし、信じるよ…」 …ん?薫の表情が… 「志摩ちゃん、覚えてるの?」 「ちょっとだけ」 「本当に?」 …顔に怒りの表情が見える。 「じゃあ分かってて柴田さんと一緒にいるの?」 …何を言って…? 「…え…それって?」 「…あぁ、そこは覚えてないんだ…騙されて、可哀想に」 ??? 僕には薫の言っている意味が解らない。 まるで僕と先輩が付き合うのはありえないって感じに聞こえる。 「薫は…一体何を知ってるの…?」 薫の瞳を見つめた。 どうしよう…怖い… 僕の知らない先輩が…。 「…知りたい?」 僕は知りたい…先輩のこと…。 薫は つっっ…と人差し指で僕の腹筋を辿った。 そして、詳しくはわからないんだけど、と前置きして話し始めた。 「柴田さんの…正確に言うと柴田じゃないんだけど…前の家はいわゆる由緒正しい血筋の名家だったんだ」 くるくるとおへその周りを滑らす。 「…あらゆる事業に成功し、富と地位を築き上げた」 ピタッと指の動きが止まる。 「志摩ちゃんはいい学校に通えるほど裕福な家で育ち、成績優秀で素直な性格が柴田さんのお父さんに認められて事業を手伝い始めたんだけど…柴田さんに気に入られて囲われ始めたんだ」 指が再び動き始めた。 「そこで無理矢理させられていた事なんて、容易に想像できるよ」 指が胸の真ん中を通る。 「だって志摩ちゃんの声が朝も夜も聞こえてたんだもの。僕の家は代々柴田さんの家に仕えていたから内情は薄々わかっていたよ」 喉の手前までくると指の先に力が込められたような気がした。 「…でも情事の後の志摩ちゃんを見た時、僕は一目で虜になった」 鎖骨の窪みを指で辿られていたのに、いつの間にか手のひらで愛撫されてる…。 「綺麗で清楚で妖艶で…とても…とても魅力的だった。 あの時は僕に力が無くて何も出来なかったけど…今は違う」 僕は薫の瞳から目が離せなくなっていた。

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