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第45話
カーテンの隙間から陽射しが溢れる。
薄明かるい室内に愛しい人と微睡む幸せ。
髪を撫で、頬を擦り寄せる。
遠い過去を思い出した。
多分、全てを。
どんなにおぞましいものでも過去は消し去れない。
でも…
前世を引きずるのもどうだろう?
宝漣が好きだったからユキさんのことを好きになった訳じゃない。
ユキさんが、たまたま宝漣だったんだ。
宝漣じゃなくたって、僕はユキさんが大好きだ。
「…あ、おはようございます」
ユキさんを愛でていたら…起こしちゃった。
「もしかして昨日は腥漣(せいれん)さんに会いに行ったんですか?」
ユキさんの目が宙を泳ぐ。
図星か~。
「僕のためですよね、ありがとうございました」
「今の彼の意思を確認してきた」
僕を嬲るように仕向けたのは腥漣。
宝漣に対する、妬み、嫉妬…そんな気持ちが彼を暴走させたのだろうか…
彼なりに宝漣を愛していたのだと思う…思うけれど…。
「腥漣は宝漣のことを愛していたんでしょうか?」
思いきって聞いてみた。
暫く何かを考えて、ユキさんが口を開いた。
「それは無いよ」
「無いの?」
「…あったのは執着…かな?」
実の弟を、とりわけ宝漣を可愛がっていた腥漣は“しまの”にヤキモチを焼いた…
…ただそれだけの事…。
美しく聡明で控え目な弟が大切にしていた“しまの”を子供がおもちゃを取り合うように奪う。
腥漣にとってはその程度…。
「今の腥漣は普通の大人だよ」
普通…ホントかな?
「…和牛、旨かった?」
チラッと流し目で僕を見る。
…ドキッ…!!
「知ってたんですか?どうして?」
「柿崎さんが教えてくれた」
あちゃ~言うべきか言わざるべきか…んっ!
ユキさんからキスの急襲…。
「他の事、考えるな…」
声が降ってくる。
返事の代わりに深く口付けた…。
パジャマのボタンを左手ではずす。
右手はユキの細い腰を抱き留めたまま。
ユキは僕の体の両側に肘を付き、キスを落とす。
僕は右手でズボンをずり下げ、下着の中に慎ましくある窪みをそっと撫でる。
「あんっ…」
ビクッと大きく体を揺らし、ユキのモノが僕の下腹部に当たった。
「ユキ、感じてる…嬉しい…」
「あ…当たり前…んんっ…」
舌を絡め衣服を剥ぎ取っていく。
「やっ…あん…」
興奮気味に上唇を舐める。
…堪らない…。
僕の可愛い恋人は前世で僕に行なわれた行為の引き金となった僕への恋愛感情を怖れていた。
また、僕を傷つけるのではないか…と。
前世でつけた足跡の上を、はみ出さないように辿る事もあれば違う跡を付けて進む事もある。
同じ結果になるとは限らないのだ。
ただ、強い想いは来世に引き継がれていく。
そして、想いは引き寄せ会う。
記憶があっても無くてもユキが好き。
これからもずっと…。
「ひあっ…んん…」
脚を高くあげてゆっくりとユキの中に入る。
奥を突くとユキの体がビクッと揺れて軽くイッたのがわかった。
「…キモチイイ?ゆっくりと動くから…」
律動を始める。
「あっ…あっ…」
ユキの唇から声のような息づかいのような嬌声が零れてくる。
その唇をキスで塞ぐ。
「んっ…」
このまま二人で一つになろう。
今も、未来も…。
ー了ー
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