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SS-1-9『気になるあの人』
「志摩!無事か!」
大きな音をたててドアが開く。
ユキさんが僕の事を心配して駆けつけてくれた。
「大丈夫です」
「先生、あれだけ志摩に手を出すなと言ったでしょ!」
先生は肩をすくめて
「出してないよ、ね、事くん」
とウインクした。
「確かに出されてません。口だけです」
「く…くち…?」
先生が僕とユキさんを交互に見て
「今度こそ幸せになれよ…真幸。僕も君を見習うよ。取り敢えずは共同研究が先だな。じゃ、お先に」
笑顔で立ち上がる先生の後ろ姿を見送り、ユキさんと二人きり…。
「もう何もしないって」
「そう…」
「ユキさんが先生にいろいろ言ってくれたんですね」
照れているのかそっぽを向いている。
「あ~ユキさん白衣着たままじゃないですか!」
「あれ?」
仕事中に慌てて来たのだろう。
飲食を伴うエリアでは白衣の着用が禁止されている。
「誰かに見られると怒られちゃいますよ。こっちに…」
「…ぁ…んっ?」
白衣を引っ張り上げ、引き寄せた。
驚いて目を開けたままのユキさんに口付ける。
誰もいないけれど…引っ張り上げた襟でキスしているのを見られることはない。
キスされてる可愛いユキさんは、誰にも見せない。
僕だけの…。
「…っん…しま…ぁ…」
胸を押され唇が離れていく。
「か…会社!仕事中!」
「そうでした!…ごめんなさい」
ちゅーすると夢中になっちゃう…ちゅーだけに…。
(…字余り)
変な言葉が頭を過ってふはは、と笑ってしまった。
ユキさんにはたるんでると叱られたけど、どうしよう…幸せが溢れだす。
僕は幸せです。
ユキさんは?
「…幸せですか?」
「…」
あ…見つめ合ってたのに…後ろ向かれちゃったぁ…。
「……るだろ…」
「え?」
「幸せに決まってるだろ!ばか!」
走り出すユキさんの背中を見送って職場に戻った。
「志摩、遅い」
柿崎さん、口調は怒ってますけど顔はニヨニヨしてますよ?
「すみません」
じゃあ始めようと課長が声を掛けて…
「源先生と共同研究する遊離L……」
柿崎さんを見て…何か…引っ掛かる…もやっとしたままなんだけど…
何だっけ…?
柿崎さんと…
「…志摩、聞いてた?」
「…は、はい聞いてます…」
柿崎さんに指されちゃった…集中集中…。
にやける顔を叩いて…でも緩む顔…。
今はちょっとだけ幸せを胸にしまっておいて会議に集中しよう。
気になるあの人 ー終ー
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