54 / 115

SS-1-9『気になるあの人』

「志摩!無事か!」 大きな音をたててドアが開く。 ユキさんが僕の事を心配して駆けつけてくれた。 「大丈夫です」 「先生、あれだけ志摩に手を出すなと言ったでしょ!」 先生は肩をすくめて 「出してないよ、ね、事くん」 とウインクした。 「確かに出されてません。口だけです」 「く…くち…?」 先生が僕とユキさんを交互に見て 「今度こそ幸せになれよ…真幸。僕も君を見習うよ。取り敢えずは共同研究が先だな。じゃ、お先に」 笑顔で立ち上がる先生の後ろ姿を見送り、ユキさんと二人きり…。 「もう何もしないって」 「そう…」 「ユキさんが先生にいろいろ言ってくれたんですね」 照れているのかそっぽを向いている。 「あ~ユキさん白衣着たままじゃないですか!」 「あれ?」 仕事中に慌てて来たのだろう。 飲食を伴うエリアでは白衣の着用が禁止されている。 「誰かに見られると怒られちゃいますよ。こっちに…」 「…ぁ…んっ?」 白衣を引っ張り上げ、引き寄せた。 驚いて目を開けたままのユキさんに口付ける。 誰もいないけれど…引っ張り上げた襟でキスしているのを見られることはない。 キスされてる可愛いユキさんは、誰にも見せない。 僕だけの…。 「…っん…しま…ぁ…」 胸を押され唇が離れていく。 「か…会社!仕事中!」 「そうでした!…ごめんなさい」 ちゅーすると夢中になっちゃう…ちゅーだけに…。 (…字余り) 変な言葉が頭を過ってふはは、と笑ってしまった。 ユキさんにはたるんでると叱られたけど、どうしよう…幸せが溢れだす。 僕は幸せです。 ユキさんは? 「…幸せですか?」 「…」 あ…見つめ合ってたのに…後ろ向かれちゃったぁ…。 「……るだろ…」 「え?」 「幸せに決まってるだろ!ばか!」 走り出すユキさんの背中を見送って職場に戻った。 「志摩、遅い」 柿崎さん、口調は怒ってますけど顔はニヨニヨしてますよ? 「すみません」 じゃあ始めようと課長が声を掛けて… 「源先生と共同研究する遊離L……」 柿崎さんを見て…何か…引っ掛かる…もやっとしたままなんだけど… 何だっけ…? 柿崎さんと… 「…志摩、聞いてた?」 「…は、はい聞いてます…」 柿崎さんに指されちゃった…集中集中…。 にやける顔を叩いて…でも緩む顔…。 今はちょっとだけ幸せを胸にしまっておいて会議に集中しよう。 気になるあの人 ー終ー

ともだちにシェアしよう!