55 / 115

SS-2-1『聖夜』

先輩が怪しい。 最近仕事終わりに会ってくれないのだ。 しかも、今日は柿崎さんとコソコソしゃべってたのに、僕には話しかけてくれなかった! 「田中さ~ん、今先輩の仕事忙しいんですか?」 ちなみに終業時間は過ぎていて、もう20時。 三階の先輩の仕事場に先輩の姿はない。 「どうかな。細かいスケジュールを把握してないから、ゴメンね」 先輩の上司である田中さんはそう言って事務処理を続ける。 僕は訳のわからない不毛な会議に駆り出されてそれが先程終わったばかりなのだ。 先輩を捕獲しようとしたのに~!逃げられた! 「ま~しょうがないか~…よいしょっと」 「帰るの?志摩ちゃん?」 だって…先輩いないし…。 「酒飲んで寝ます。お疲れ様でした」 あ~がっかり。 クリスマスまであと少し。 デートの約束をしたいのに…。 高校生の時、先輩に一目惚れをし、社会人になってようやくお付き合い?をするようになった。 先輩が忙し過ぎて会社でランチデートばっかりだったけどね! ようやく、え…えっち…的なことが出来て(めっちゃ嬉しい)からの初めてのクリスマスなのに…デートの約束をまだ取り付けてない…。 会社を出ると北風がぴゅう~と吹いた。 うぅ…今日はまた一段と寒さが堪える。 しばらく歩いて明るさに引かれるように自動ドアを入っていく。 今日はここのコンビニで買うか。 コンビニで買ったおでんに体だけでも温めてもらおう…。 「志摩、ちょっといい?」 「はい」 柿崎さんに呼ばれて近づくと、デスクの上に金属の輪がたくさん並んでいた…これは何? 「新しい手袋の企画があって指のデータを集めているんだ。はい、手出して」 いわれるがまま両手を開いて差し出す。 「何のための手袋ですか?」 「薬品を取り扱う時、指先が余った手袋だと危ないだろ?」 まあ、そうだよね。 「少しでもフィットするモノを開発しようかっていう話がでてるんだと」 「へ~」 あんまり興味ないな。 柿崎さんにおまかせして、僕はその間ずっと先輩の事を考えていた。

ともだちにシェアしよう!